2012年

1月

06日

アンネ・フランクをたずねて

ナチスの迫害によって、若くしてこの世を去ったアンネ・フランク。彼女を敬愛し、「アンネの日記」を愛読書としてきた著者が、そのゆかりの人々や土地をたずねて書き下ろしたノンフィクションです。

 

本書は「アンネ・フランクの記憶」(小川洋子 角川文庫/1998年刊)をもとに、同著者によって少年少女向けに新たに再編されました。 再編本ということで、取材時期の関係により、現在は故人となったアンネゆかりの人々も登場しています。しかし、本書を刊行するにあたって著者の小川さんは、2010年にアウシュビッツを再訪し、それをまとめたものが若干ながら加筆されています。

隠れ家生活という辛い毎日を前向きに生きたアンネ・フランクという一人の少女を、ナチスの暗く、残酷な時代背景と共に追っていきます。要所に「アンネの日記」にある言葉を用いつつ、小川さんならではの女性らしい視点でアンネを分析しつつ話は進みます。


取材で訪れたゆかりの人々へのインタビューや、各所へ足を運び、生の空気を感じたからこそ出来る貴重なレポートは大変意義のあるものです。思わず顔を背けたくなるような歴史の惨状にも、決して目を背けずに受け止めるという著者の姿勢がとても印象的に描かれています。そして、読者もそれを史実として受け止め学ぶことによって、たくさんのことを本書は訴えかけてくれると思います。

原本の「アンネの日記」と一緒に読むのがベストなのかもしれませんが、本書単独でも十分楽しめる内容になっています。それは本書が「アンネの日記」のガイド本的役割を果たしているとともに、ナチスやその時代背景に関する優れた資料としての役割も兼ねているからです。わかりやすい言葉で書かれているので、「アンネの日記」の導入本という形で本書を活用するのもいいかもしれません。

(kawaguchi)


アンネ・フランクをたずねて』
小川 洋子 (著), 吉野 朔実 (イラスト)  角川つばさ文庫  2011年12月

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2011年

12月

23日

怪物はささやく

この物語には二人の著者がいます。

2006年に『A Swift Pure Cry』で鮮烈なデビューを果たし、その後児童文学を4作残しながらも早世したシヴォーン・ダウド。彼女の原案をもとに、カーネギー賞受賞作家でもあるパトリック・ネスが彼女からバトンを引き継いで作品化しました。

 

物語はある夜、13歳の主人公コナーのもとにイチイの木の姿をした怪物が現れるところからはじまります。最初は“いつものおそろしい夢”だと思っていたコナーも、それがどうも今回は違うということに気づきます。怪物は「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つ目の物語をわたしに話すのだ。おまえはかならず話す…そのためにこのわたしを呼んだのだから」と言います。

 

主人公も読者も、この時点では怪物の言っている意味がよくわかりません。物語を語る?そこに一体どんな意図があるのか?しかし物語が進むにつれて、怪物の存在や語られる物語、“いつものおそろしい夢”の正体がおぼろげながら徐々に見えはじめてきます。

 

怪物の語る3つの暗示に満ちた物語。それらは現実の世界での出来事にもリンクしていて、コナーはそこに自らの期待・願望をも込めるようになります。しかし突きつけられるのは残酷な現実…。納得のいかないまま、今度は自分が物語を語る番になります。4つ目の物語は必ず真実でないといけません。しかし、この4つ目の物語を語るコナーは悪戦苦闘します。自分では決して受け入れたくない真実、しかしその葛藤を必死に乗り越えようとするコナー。その成長の軌跡が儚くも美しい姿で描かれています。


重病に苦しむ母とアメリカで再婚相手の家族と暮らす父親。そんなコナーの置かれている家庭環境を背景に物語は進みます。学校ではいじめに合い、唯一の理解者であった幼なじみとはすれ違ってしまう…。やり場のない怒りや哀しみ。思春期特有の繊細な心の動きが、複雑に絡み合いながらも一つの真理に向かって突き進むストーリー展開は圧巻です。各所に散りばめられた、暗く、荒々しく、悲壮に満ちたモノトーンのイラストも、この作品の世界観を大いに引き立ててくれています。創作に一年を費やしたというジム・ケイの仕事もこの作品の大きな立役者です。

 

本の帯にもある『喪失と浄化の物語』という言葉がやはりピッタリの作品だと思います。ラストにある、哀しくも、しかし美しいシーンの秀逸さは、やはり各所に散りばめられた伏線がしっかりとクライマックスで噛み合うことによって成せる業だと思います。そしてそれがまたうまい具合に作品の余韻として、いつまでも心地よく尾を引いてくれる仕掛けにもなっているのではないかと思います。      (kawaguchi)


怪物はささやく

パトリック ネス著, シヴォーン ダウド原案  池田 真紀子訳

あすなろ書房 2011年11月

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