「狼と香辛料」

今回紹介するのは支倉凍砂著「狼と香辛料」です。この本はライトノベルと呼ばれるジャンルに属しています。

 

ライトノベルと言うジャンルはどこらからがライトノベルでどこから普通の小説なのかという明確な境界線はないのですが、一般的に「表紙や挿絵にアニメ調のイラストを多用している若者向けの小説」と言われ、1990年代ごろから確立され始めたジャンルです。

皆さんは今までライトノベルを読んだことはありますか。今の若い方はライトノベルに触れる機会が多く、何十冊とはいかなくても一冊や二冊読んでみたことがある人は多いと思いますが中には「表紙が恥ずかしい」や「現実とかけ離れためちゃくちゃな設定ばかりでついていけない」と考えて読んでいない人、または「稚拙な文章でイライラする」や「中身が全くない」などの理由で読むのをやめてしまった人もいるかもしれません。しかし、今回紹介する「狼と香辛料」はライトノベルの中でも物語の質が高く、なおかつ読みやすい部類に入ると思います。

 

「狼と香辛料」は中世ヨーロッパ風の世界を舞台にした、主人公のロレンスと豊作をつかさどる神と名乗る狼ホロの二人の旅を描いた作品です。ライトノベルというと神坂一の「スレイヤーズ」に代表されるような剣と魔法のファンタジーものや谷川流の「涼宮ハルヒの憂鬱」に代表されるような現代の学園を舞台にした日常生活にSF要素がはいった作品を想像しがちですが、この作品には超能力や魔法のような要素はあまりありません。

主人公のロレンスは荷馬車で各地を旅する行商人で、いつか自分自身の店を構えるのを夢見ながら旅と商売を続けています。あるとき、ロレンスは少女の姿をした賢狼ホロと出合い、成り行きで彼女の故郷である北の国へともに旅をすることになります。道中様々な騒動に巻き込まれながらも経験と機転で解決していき、二人の絆が深まっていきます。

 

この作品は2008年に第一期「狼と香辛料」、2009年に第二期「狼と香辛料Ⅱ」として二度アニメ化されていますが、私がこの作品を読むきっかけになったのはそのアニメを視聴したことです。派手さはありませんが普通のアニメにはない独特の大人びた雰囲気に当時高校生だった私は引き込まれてしまい、一期と二期の両方に見てしまいました。アニメを見た後は当然原作である小説のほうも読みたくなり、本屋に行って買おうかどうかと迷いましたが、当時受験を控えていたこともあり、「このまま買ってしまうと夢中になって読んで取り返しのつかないことになるだろう」と考え泣く泣く購入を見送ることにしました。それほど当時の私にとって「狼と香辛料」は衝撃的だったのです。一年後無事大学合格を果たした私はライトノベルの「狼と香辛料」を一巻から買って読み始めました。一巻を読み終えて私はさらにこの作品が好きになりました。

 

アニメ版は登場人物の心の内は描写されていませんでしたが、この小説は作者の目線から書かれており、登場人物の心情が文章を通じてわかるようになっており、心情が分かることでより登場人物に共感することができます。例えば主人公ロレンスの描写ですが、一巻の序盤にこのような文章が出てきます。

 

「ロレンスは空を見上げて、きれいな満月にため息をついた。最近ため息が多いと自覚をしてはいたが、食っていくためにがむしゃらに頑張ってきた反動なのか、ある程度余裕が出てきた最近はつい将来のことなどを考えてしまう。それに加え、頭の中が売掛債権や支払期限のことでいっぱいで、一刻でも早く次の町に行かなければと必死になっていた頃には思いもしなかったことが、よく頭の中を駆け巡っている。具体的にいえば、いままで知り合ってきた人達のことだ。たびたび行商で訪れる街で親しくなった商人達や、買い付けに行った先で仲良くなった村の人達。それに雪による足止めを食らったときに長逗留した宿で好きになった女中のことなどなど。要するに人恋しいと思うことが多くなったのだ。一年のほとんどを独り荷馬車の上で過ごす行商人にとって人恋しくなるのは職業病ともいえたが、それをロレンスが実感し始めたのは最近のことだ。それまで俺に限ってそんなことあるものかとうそぶいていた。しかし、一人で何日も馬と一緒に過ごしていると、馬が話しかけてきてくれればな、などと思ってしまうこともある。」

 

上の文章はロレンスがホロに出会う前にいままでの人生を回想している場面ですが、ロレンスの心情が非常に分かりやすく描写されています。ロレンスは行商人であり一年中各地を旅しています。そのため旅の道中一人でいることのほうが多く、そのことに寂しさ・人恋しさを感じていたのです。その後ホロと出会い、二人で旅をすることになるのですがそれがただの成り行きだけではなく、ロレンスが孤独な旅に寂しさを感じていたからだと考えることができるのです。

 

ライトノベルというジャンルが苦手な人でも、この作品を読めば考え方が変わるかもしれません。ぜひライトノベルが好きな方も苦手な方も本作を手に取ってみてください。

 

『狼と香辛料』

支倉凍砂 アスキーメディアワークス出版 2006年2月