小泉陽一郎「ブレイク君コア」

これまで紹介してきた本はどちらかといえば少し昔の本が多かったのですが今回紹介するのはいたって新しい作品です。タイトルは『ブレイク君コア』。
この小説は新進気鋭の出版社である星海社の星海社FICTIONSから出版されています。今回はこの作品についてだけでなく、その出版社のシステムについても少しお話ししたいと思います。

 

星海社は2010年の春に設立された出版社です。そしてこの出版社のなかでも特徴的なのは、星海社FICTIONS新人賞という年に三度開かれる新人賞なのです。
一 般的な新人賞には「下読み」というステップがあります。まず賞に届いた作品を編集者以外の評論家やライター、新人作家などといった人たちが読み、ある程度 の数まで絞る作業の事です。しかしこの星海社FICTIONS新人賞では「全ての応募原稿を、読むプロである編集者が直接読む」というシステムが採用され ています。このシステムの元になっているのは星海社副編集長である太田克史さんの出身母体、講談社のメフィスト賞です。

 

メフィスト賞とは90年代中ごろに創設された賞であり、現在の文芸の一つの流れを作っている舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新といった個性的な作家たちを数多く輩出している賞です。このメフィスト賞がそのようなシステムになったきっかけとしては作家、京極夏彦の存在があります。京極夏彦のデビュー作『姑獲鳥の夏』はもともとは持ち込みの原稿でした。この小説はそれまでの新人賞では受け付けられない膨大な枚数、そして賛否の分かれる強烈な個性を持った作品であり、新人賞などでは下読みの段階ではじかれていたかもしれなかったのです。しかしこの作品による京極夏彦のデビュー成功によって、投稿作には編集者が全て目を通すという異例のシステムが立ちあがったのです。

 

そして今回取り上げた『ブレイク君コア』は、そんなメフィスト賞の流れを受け継いだ星海社FICTIONS新人賞の第一回受賞作なのです。物語の舞台は福島。片思い中の憧れの女の子との下校中、彼女が突然トラックに跳ね飛ばされてしまいます。すると彼女の肉体には別の人格が入り込んでしまうのです。人格交代モノのお話はわりとありふれていますが、著者の若さからくる独特の勢いと斬新なひと工夫で最後まで楽しく読めます。めまぐるしく入れ替わる人格に揺さぶられる主人公の恋愛観に読む私たちも煩悶させられていきます。
この作品はもちろん紙の本で出版されていますが、星海社が運営しているWEBサイト「最前線」でその全文を無料で読むことができます。

こういった試みは少しずつ各方面で増えているように感じます。もちろん、本が売れなくなるから無料で読むことができるというのはよくない、という人もいます。しかしこの考えは少し寂しいように思います。当然出版物の売上はとても重要なものだとは思いますが、作家さんにとって大切なのは本を買ってくれる人ではなく、本を読んでくれる人なのではないでしょうか。
現在は消費のスタイルとして「前払い」式が一般的ですが、例えばこの『ブレイク君コア』をWEBで全文読み、気に入ったのであればこの作品を作り出した方々への「お礼」の意味も込めて本を購入し、次は本で読んでみるというような「後払い」的な順序のお金の使い方もアリだと思います。
これからの時代を担うやもしれない新人作家による快作『ブレイク君コア』。次世代の感覚に触れてみてはいかがでしょうか。

(中川)

 

『ブレイク君コア』小泉陽一郎
講談社 2011年7月