「江戸川乱歩傑作選」

 今回紹介するのは推理小説家江戸川乱歩の短編集「江戸川乱歩傑作選」です。江戸川乱歩はかなり有名な作家なので知っている人も多いと思います。「江戸川乱歩傑作選」は筆者のデビュー作である「二銭銅貨」をはじめとする初期を代表する短編小説を収録しています。

 

 ところで皆さんは推理小説を読んだことはあるでしょうか。小説には恋愛小説や歴史小説など様々な分野がありますが、推理小説はその中でもかなり人気のあるジャンルといえます。現在、数多くの推理小説が出版され、時にはドラマ化してテレビ放送されたりします。多くの作家がありとあらゆるトリックを考え出しているため、新しいトリックを生み出すのが難しくなっており、ある小説家は「もし、密室殺人で新しいトリックを思いついた人がいたなら百万円払ってでもそれを買い取りたい」というぐらいで、つまり推理小説は日本で長年人々に好まれ続けて洗練されたジャンルの小説であるといえるのですが、ここまで発展した推理小説の礎を築いたのが江戸川乱歩なのです。江戸川乱歩は大正から昭和にかけて活躍した小説家です。当時日本の推理小説は外国の訳本が主でしたが、江戸川乱歩は西欧の推理小説をお手本にしつつ独創的な作品を作り出し出しました。

 

私は江戸川乱歩が有名な推理小説家であるというぐらいは知っていましたが、実際に作品を読んだことはありませんでした。昔私は推理小説になじみがなく、なんとなく堅苦しそうだという理由で読んでいませんでした。江戸川乱歩の作品に興味を持ったのは高校生の頃に読んだSF作家星新一がエッセイの中で江戸川乱歩の小説について語っていたことがきっかけでした。前回前々回と本を紹介したことからわかると思いますが、星新一は私の最も好きな作家のひとりです。星新一が子どもの頃、江戸川乱歩は少年探偵団シリーズに代表される多くの児童向けの小説を書いており、星新一は胸をときめかせながらそれを熱心に読んでいたと語っています。私自身は前にも書いた通り小学生のころから星新一の本を夢中になって読んでいた人間ですからそのエッセイを読んだとき「あの星新一が熱心に読んでいた江戸川乱歩の小説は一体どういったものなのだろうか」と興味を持ち、何か一冊読んでみようと手に取ったのがこの「江戸川乱歩傑作選」だったのです。今回はこの中のいくつかを紹介したいと思います。

 

「屋根裏の散歩者」はあるアパートを舞台にした殺人事件をテーマにしています。登場人物の郷田三郎は暇を持て余した若者でしたがあるとき自分の住んでいる部屋の押し入れで屋根裏へと通じる入口を発見し、その日から三郎の屋根裏の散歩が始まります。最初は同じアパートの他人の様子を見るだけだったのが好奇心を抑えられず、ある時アパートの隣人を殺害してしまいます。この「屋根裏の散歩者」は思うがまま屋根裏を跳梁する三郎の様子をリアルに描いています。江戸川乱歩は小説を灯りのない暗い部屋で書いていたという逸話が残っており、この「屋根裏の散歩者」もそういった暗闇での実体験をもとにしているのかもしれません。また、この小説には日本でも有名な架空の探偵である明智小五郎が登場します。物語の前半は屋根裏部屋を発見し殺人を犯すまでの三郎の様子、後半は明智小五郎の華麗な推理により三郎が遂に自白してしまう様子を描いており、まるで自分自身が明智小五郎に追い詰められているように感じてしまいます。

 

デビュー作「二銭銅貨」は、強盗犯が盗んだ大金のありかが書かれた暗号メモを発見した男が、その暗号を解き明かしていき、ついに大金のありかを突き止めるという内容です。暗号は推理小説には付き物ですがこの小説に出てくる暗号はかなり独特で、例えば

「南無弥陀仏、南無、南仏、南無」

といったお経のような暗号です。暗号の意味が分かった時、思わず手をたたきたくなるような痛快さがこの作品にはあります。上の例に挙げた暗号は作中の暗号の法則に従って私が作ったものなので意味を知りたい方は是非「二銭銅貨」を読んでみることをお勧めします。

 

私は最初軽い気持ちで、学校の朝の読書時間にこの本を読むことにしたのですが、十分間の読書時間が終わった後も続きが気になってしまい、授業と授業の合間や昼休みにもこの本を読み、家に帰ってからも読み続けました。数十年前の作品のはずなのに、あまり古さを感じさせず、またこの本を通じて数十年前に星新一が受けた感動を共有しているというのがうれしくて一気に最後まで読んでしまいました。レビューを読んで興味を持った人は是非手に取ってみてください。

(西蔭健作)

 

 

『江戸川乱歩傑作選』

江戸川乱歩 新潮社 1960年 1227