ピアズ・アンソニィ「魔法の国ザンス カメレオンの呪文」

魔法。それはだれしもが一度は夢見るものであり、だからこそそれを扱った創作物はこの世に数多く存在しています。


今回紹介する「魔法の国ザンス」もそのひとつ。ファンタジーの本場イギリスで生まれ育った小説家、ピアズ・アンソニィによるシリーズもののファンタジー小説です。海外のファンタジー小説というと「ハリーポッターシリーズ」が有名ですが、この作品はそれに負けず劣らず魅力的な作品であるとして高い評価を受けています。

 

物語の舞台はタイトルにもなっている、魔法がすべてを支配する異世界ザンス。この世界に生きる者は全てが魔法を使えるかもしくは生き物自身が魔法的な存在なのです。そして人間が使う魔法には一つたりとも同じものはなく、何の役にも立たないようなものから強力なものまで千差万別。しかし25歳を過ぎても魔法の力を持たないものはマンダニアと呼ばれる魔法の無い世界へと追放されるという掟がザンスには存在します。

第一作「カメレオンの呪文」の主人公はもうすぐ25歳の誕生日を迎えるというのに一向に魔法の力が現れない青年ビンク。ザンスを追放されてしまうことを恐れたビンクが、自らの魔法の力に関する答えを求めて知識の魔法使いハンフリーのもとを訪れる旅を決意するところから冒険は始まります。しかしもちろんビンクに魔法の力が無いわけはありません。ビンクの魔法の力とはいったい何なのか。それが明らかになっていく中で登場する様々なキャラクターはどれも魅力的で、この作品が他のファンタジー作品とは違ってキャラクターそのものに焦点を当てていることが分かります。

 

また、このシリーズの大きな特徴としてしばしば挙げられるのが「駄洒落」です。駄洒落や語呂合わせといったユーモアが作品のさまざまな部分に散りばめられており、この作品の根幹自体にも駄洒落が組み込まれているのです。もちろん作品のオリジナルは英語で書かれているわけですが、このシリーズの翻訳を担当している山田順子さんの名訳により、その駄洒落の妙が日本語でも違和感なく楽しめるようになっています。

当初は3部作として開始されたこのシリーズは、好評であったがために予定を変更して続けられ、現在はなんと35巻まで出版されており、日本でも21巻まで翻訳されています。これだけの量があるため、普段気に入った小説を見つけた時に抱きがちな「もっと楽しみたい!」という欲を必ずや満たしてくれることでしょう。

英国幻想文学大賞も受賞したユーモア・ファンタジーの傑作「魔法の国ザンス」シリーズ、一度はまってしまうと長い旅になってしまうことをご忠告しておきます。

      (中川)

『魔法の国ザンス カメレオンの呪文』

ピアズ・アンソニィ/著 山田順子/訳

ハヤカワ文庫FT 198512