星新一『声の網』

世に小説好きは数あれど、星新一を読んだことが無い者はいない。

 

というのは僕が常々提唱している説ではありますが、おそらく当たっているのではないでしょうか。きっとみなさんも星新一の作品を一度は読んだことがあると思います。

 

星新一の作風として有名なのが言うまでもなく「ショートショート」という形態でしょう。

ショートショートとはその名の通り非常に短い短編小説のことを指すのですが、星新一はショートショートの神様とも呼ばれ、1000作以上ものショートショートを遺したことは世に広く知れ渡っています。

しかし今回僕が紹介するのは、その有名な「ショートショート」とは少し違った作品である、『声の網』です。

『声の網』は星新一作品に多く見られるそれぞれの話が独立した短編集ではなく、いくつかのお話を連ねて一つのことを描き出す、短編連作の小説です。

この物語は12の話からなっており、とあるマンションの1階から12階までそれぞれに住んでいる人々に起こる出来事が描かれます。物語の時代は近未来、電話に聞けば何から何まで教えてくれ、それだけでなくお金の払い込みからジュークボックス、診療サービスまで電話一本でできる世界です。そして物語はマンションにの住人たちに不思議な電話がかかってくることから始まっていきます。

これまでの説明で何か気づきましたでしょうか。

 

そう、この世界の「電話」とは、今私たちが当たり前に利用している「インターネット」に非常に似ているのです。

何でも教えてくれる検索エンジン、種々のサービスが家に居ながらにして受けられる機能、まさにインターネットそのものです。

では、ここで少し不思議に思うことはないでしょうか。

星新一は少し昔の小説家。あれ、インターネットっていつからあったんだっけ…?

 

この作品が発表されたのは1970年。一方そのころインターネットはというと、まだまだ開発途中であり、個人が利用できるには程遠い状況でした。今日のようにインターネットが全世界に普及し始めるのは2000年ころからであり、この作品が発表された1970年には、人々の日常生活にインターネットなどというものは存在していなかったのです。

つまり星新一は、今から40年以上前、インターネットが普及し始める30年以上も前にこの『声の網』でやがて訪れるインターネット社会を、驚くほど正確に予見していたのです。

星新一作品を好きな人には、「オチが面白い」「話のアイデアがすごい」という人が多くいると思いますが、僕が思う星新一の本当に恐るべき魅力とは、その「先見性」なのです。

 

物語の終盤で、とある人物がその社会(ないしは世界)について自身が思いついた考えを友人に語ります。彼はそれを「帰巣本能的な文明論」と名付けますが、それはまさに40年以上の時を隔てた現代社会への警告ともとれるほどすさまじい内容のものであり、もしかすると不気味にすら感じてしまうかもしれません。本作品では表だって何か大きな事件が起きたり、あっと驚くような結末が用意されていたりということはないのですが、きっとどんな波乱万丈な作品にも負けないくらい、心が揺さぶられてしまうことでしょう。

 

誰もが慣れ親しんできた星新一の違った一面でもある、もはや予知能力とでも言うべき「先見の力」に触れてみてはいかがでしょうか。

(中川)

 

『声の網』 星新一

角川文庫 改版初版20061