乙一『暗いところで待ち合わせ』

 文庫書き下ろし用として書かれたこの作品は2006年に映画化もされており、そちらを見たことがあるという人もいるかもしれません。

 

とある駅のホームで殺人事件が起き、その犯人として警察に身を追われる大石アキヒロ。逃亡犯となった彼は、駅のすぐ近くで独り静かに暮らす盲目の女性・本間ミチルの家に逃げ込み、居間で身を潜めます。見知らぬ誰かの気配に気づいたミチルは危害を加えられることを恐れ、気づかぬフリをし、いつもどおりに振舞おうと決めました。そんなアキヒロとミチルの奇妙な約2週間の「二人暮らし」が2人それぞれの視点から描かれた物語です。

この小説を何か特定のジャンルに分類することは難しく、むしろ複数のジャンルのテイストが織り交ぜられているというのが正しいでしょう。殺人事件に重きを置いて読めばミステリーですし、アキヒロとミチルの生活・関係に重きを置けばほのぼの系、或いはロマンスといえるかもしれません。アキヒロは職場での人間関係がうまくいかなかったことから、ミチルは自分の目のことから、2人には他人に怯え独りを好むという偶然の共通項がありました。そんな2人が互いの存在を認識し、心の距離を少しずつ縮め、精神的に成長していく姿には、喩えるならば、突然の停電の中で手の感覚だけを頼りに辺りを探ったときふと誰かの指先の温もりに触れるような、わずかな不安の入り混じるあたたかさを感じます。私は是非その点に注目して読んでほしいです。

ひとつ残念なことは文庫のカバーデザインです。登場人物に盲目の女性がいるのに表紙は目がぱっちりと少し怖いくらい大きい女性になっており、表紙だけを見ると、タイトルの雰囲気もあいまって必要以上にホラーチックになってしまっています。

実際の内容にはホラー・グロテスク表現は一切ないので、今まで表紙で敬遠していた方もそうでない方にも一読をおすすめします。

(マツバラ)

『暗いところで待ち合わせ』乙一 

初版 幻冬舎文庫 20024

現在は『失はれる物語』 (角川文庫)GOTH 夜の章』 (角川文庫)などに収録