瀧羽麻子『うさぎパン』

 

2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞した作品です。

主人公はお嬢様学校育ちでパンが好きな高校生の優子。物語は大まかに二分することができ、一つはパン好きという共通項を持つクラスメイトの富田君との話、もう一つは家庭教師の美和ちゃんや優子の義母のミドリさん、そして美和ちゃんとの出会いをきっかけに出会ってしまった「ある人物」との話で、恋愛、友達、家庭、あらゆる面から優子と彼女を取り巻く人物たちの日常が淡く優しく描かれています。

 

作中のテーマの一つとして「人や物事を好きになるということ」があげられます。

誰にでも好きなものがあると思います。好きなものが数えきれないほどあるという人もいるかもしれません。例えば遊園地と体育の時間が好きだとしましょう。なぜ遊園地が好きだと思うのか?楽しいから。なぜ楽しいと思うのか?色んなアトラクションで遊べるから。なぜ色んなアトラクションで遊べると楽しいと感じるのか?じゃあ遊園地と体育の時間ではどちらの方がどれくらい好きか?――――

こうして何かを好きであるということに対してなぜ?どうして?どのくらい?という問いかけを重ねていくと、必ずどこかで「知らないよ!好きなものは好きなんだからしょうがないでしょ!」と考えることを放棄したくなる時が来はしないでしょうか。私はなります。それでいいのです。

何かを好きになるということには必ずしも論理的な理由がないといけないわけではない。また好きなものが増えていくということはその好きなもの一つ一つに向ける感情の熱量が減るということではなく、すべてのことを最大限の力で愛することも可能である。それは理不尽と思う人もいるでしょうし、主人公の優子もそう思っている一面が見られますが、それらの理不尽さが許される、そういう優しさがこの物語には含まれています。

 

また幻冬舎から出ている文庫版には美和と彼女の友人桐子を主人公にした書き下ろし小説「はちみつ」も収録されていて、1か月前の失恋から立ち直れずにいる桐子の視点から物語が描かれ、「好きになる」ということの中でも恋愛面に焦点があてられています。

 

文量は多くはなく2時間もあれば読み終えられる程度で文体も淡々としているので、何かの受賞作であると期待して力んで読み始めると拍子抜けするかもしれません。通学通勤の時間や学校の休憩時間に休憩気分で読むことをおすすめします。

ただし読んでいるとパンが食べたくなるのでご注意を。

(マツバラ)

『うさぎパン』

瀧羽麻子 ダヴィンチブックス 2007年(幻冬舎文庫2011年)