鉄のしぶきがはねる

第27回坪田譲治文学賞受賞作品です。

 

前回の受賞作、佐川光晴『おれのおばさん』は児童養護施設が舞台でしたが、今回は工業高に通う、学科唯一の女子高校生が主役です。

 

なじみのない世界の作品は、それだけで新鮮で珍しいものを読む楽しみもありますが、そういえば子ども時代に読む本は、ほとんどが知らない世界の話で、珍しさを楽しむ読み方は、児童書を読んでいる感覚に近いのかも、と思います。

さてお話は、工業高校機械科1年、部活もコンピュータ研究部という理系女子、三郷心を中心に進みます。心の家は、おじいちゃんが興した金属工業の工場だったけれど、ある事件から廃業。それ以来、旋盤技術よりコンピュータが進んでいる、と信じています。しかし学校の「ものづくり研究部」に誘われ、旋盤作業をするうち、職人技の魅力に目覚め、先輩や仲間との関わりを深め、やがてものづくりコンテストをめざします。

 

工業高校に通う女子といえば、ドラマ化もされた、漫画『アスコーマーチ』があるので、ちょっと印象がかぶるかもしれませんが、この本の醍醐味は、旋盤技術の詳細な描写でしょう。100分の1ミリを争う技術、用具や技術の名称、削り出す音や手に伝わる感触など、読みながら追体験しているようで、オタク的感覚がめばえてくる気がします。その分、人物の内面や、恋愛の部分に関しては少々手薄に思えましたが。

同級生の男の子の、技術があるからこそのやんちゃないたずらや、それを鷹揚に受け止める先生のくだりが、小さなエピソードですが、かなり好きなパートでした。 (makio)


『鉄のしぶきがはねる』

まはら三桃 著 講談社 2011年2月