舟を編む

 この本の話をしていたら中学生の子どもが「それ、先生が授業中話してた」と言っていました。辞書をつくる編集部の話は、確かに大人よりもずっと辞書をひく機会の多い中高生にもリアルに面白いかもしれません。

 

 出版社の中では地味な存在の辞書編集部、定年間近の老編集者が後継者として迎え入れたのが、営業部で持て余されていた馬締(まじめ)光也。

 言葉への独特な情熱を持つまじめのオタクぶりや、日々の生活、時代がかった恋愛の顛末もおもしろいのですが、彼の存在が編集部に、また辞書そのものに新しい風を吹き込んでいくさまに惹かれます。

 

 辞書に興味のないチャラ男の西岡、ファッション誌から異動になった岸辺、それぞれがまじめとは違う視点で言葉をとらえ、それがまじめ曰く「血の通った辞書」にするのに役立っていく場面にぐっと来ました。

 冒頭の先生が話していたというのもそのあたりで、「愛」という単語の例に「愛妻。愛人。愛猫。」というのはまずい、と岸辺が指摘するところ。先生、いいセンスです(笑)。

 

 用語採集カード、執筆者への依頼、用紙の開発など、辞書を作る過程そのものも興味深い。辞書にあとがきがあり、謝辞があるということにはじめて気づきました。装丁は渋いですが、帯、表紙に描かれた漫画風イラストが、若い読者も呼んでいるようです。

(makio)

 

『舟を編む』

三浦しをん/著 光文社 2011年9月