ある小さなスズメの記録

 

 先週の『週刊文春』、「第4回 本屋さん大賞」で絵本・児童文学の分野で第4位になっていたのが本書です。

 そうかこれは児童書ともいえるのか、と思い今回ご紹介です。

 

 第二次世界大戦中のロンドン郊外、ピアニストの老婦人が足と翼に障碍を持つ小スズメを拾う。献身的な愛情に包まれて育った小スズメは、やがてさまざまな芸を覚え、空襲下で不安を持つ人々希望の灯火となっていく。本書は著者である婦人が、小スズメ・クラレンスの生涯を克明に描いたノンフィクションです。

 

 1953年に英国で出版されベストセラーになり、日本でもこれまで3度翻訳されたとのこと。2010年11月、梨木香歩訳、酒井駒子装画で文藝春秋から再出版され、各方面で話題を呼んでいました。

 正式な書名は、サブタイトルに「人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯」が入りますが、このタイトルは、訳者梨木氏の「物語ではなく、記録であることをはっきりさせたい」との希望によるとのこと。

 確かに本書は、瀕死の動物を育て、人々に感動を与える、という物語的な側面以外の、老婦人の記録としての文章が秀逸です。野生の鳥の観察記としても非常に優れているとのことですが、冷静に客観的な視点と、溢れ出る愛情、英国らしいユーモアが、おそらく梨木訳のおかげでより一層美しい読み物となっているのでしょう。

 私がこの本を読んだのは大震災翌月の、小説があまり読めなかった頃。しかしこのドキュメンタリーにはいつのまにか没頭していました。戦時下のロンドンという時代背景にはあまりなじみがありませんでしたが、老婦人とクラレンスの暮らしの情景はまさしく目に浮かぶようです。

 

 函入りの美しすぎる装丁、児童書ではなじみのない出版社で、ティーンズは手にとりにくそうですが、機会があればぜひ、とおすすめしたい1冊です。 

(神谷巻尾)

『ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯』

クレア・キップス 梨木香歩[訳] 文藝春秋 2010年11月