鍵の秘密

 1998年に第4回児童文学ファンタジー大賞奨励賞受賞作品です。大幅に加筆修正され2010年11月に刊行されました。


 刊行時に、「著者は超長編しか書かない」というような情報をどこかで見て気になっていました。本書は696ページ。A5版ハードカバーでずっしり重く、何度か外出に持っていき後悔しました……。確かに子どもの頃読んだ長くて厚い本は、図書館や家で読むものでした。子どもの本も新書など軽い本が増えているけど、「持ち歩かない本」も児童書の魅力のひとつかもしれません。

 物語は、主人公の小学生ノボルが、別の世界に出入りできる鍵を拾ったことから始まります。鍵の向こうには、悪の手によって闇に閉ざされた城があり、陰謀によって捕われた王女が助けを求める手紙と鍵を、救うべき人物に託す。その選ばれた人物が、ノボルというわけです。ノボルの父親は2年前に突然失踪していて、そのことと関係あるかもしれない、と考えて別世界に向かい、さまざまな人物との出会いや、こちら側にいる友だちとの葛藤などを経ながら冒険を繰り広げます。

 もう一つの世界、選ばれた者、悪の陰謀、囚われの姫など児童ファンタジーらしい設定や、勇気・友情・冒険などが絡み合う展開で、ある意味安心して読めました。ハリポタの次に何を読めばいいかわからない、という子どもたちにも入りやすいのでは。主人公が日本人で、学校や友だちの描写も多いので、共感を持ちやすいかもしれません。

 

 異世界で賢者や占い師と冒険しながら、父親のことを思い葛藤するノボルが、少し気負いすぎな印象もありますが、学校で合唱の練習をしたり、親友と暗号で手紙をやりとりする小学生の生活に、安心感があります。テープ起こしの仕事やヨガ教師になるための学校に通うお母さん、近所に住むさみしいおばあさん、北川さんも、いい存在です。このあたりが、海外ファンタジーにはない面白みでしょうか。

(神谷巻尾)

『鍵の秘密』
古市卓也(福音館書店)2010年11月