奇界遺産

 休み時間が退屈で、友達との会話も盛り上がらない。そんなときはこの本を持っていくといい。絶対、バカみたいに盛り上がる。ひょっとしたら盛り上がりすぎて、本が君の手に戻ってこないかもしれないが。

 

 『奇界遺産』。聞きなれない言葉だろう。そりゃそうだ。奇界というのは<奇妙な想像力>が作り上げた<奇妙な世界=奇界>で、この本を書いた佐藤健寿さんが作った言葉で、誰もが使っている言葉ではない。そして、この本には、おそらく君が”奇妙な世界”と聞いて想像できる奇妙さではとても追いつかないくらい、狂気に満ちた世界が広がっている。

 

 たとえば、タイのワッパーラックローイというお寺。その様子を表す文章を紹介させてほしい。

 

  “寺の名を借りたモンスター・パラダイスとでも言うべき、壮絶なコンクリートジャングルがそこにある。電動で仏像が回転しながら、ゲーム方式でコインをトスさせるアグレッシブな賽銭回収マシンから、ときに住職の念仏をかき消すほど激しい咆哮をあげる巨大恐竜まで。ノー・リミットで暴走する住職の想像力を具現化した、一大仏教ギャラクシーが繰り広げられている。” 

 

 これを読んでも、どんな寺かまったく想像できないだろう。27枚にも及ぶ写真を見ても、この寺をうまく形容する言葉は浮かんでこない。とてもまじめな仏教寺らしいのだが、写真と文章を見ていると、腹を殴られ続けているような奇妙な笑いが押し寄せてくる。

 ほかにも、延々と貝殻を使った細工を作り続け巨大な廟を完成させたおっさんや、ワニの一本釣りができるテーマパークなど、解釈しがたい大量の写真が200ページ近くものボリュームで紹介されている。

 ここには役に立たないもの、意味のわからないもの、不合理なものがたくさん紹介されていて、そのどれもが強烈な磁力を発して私たちの目をくぎづけにする。まわりにあるどんな役に立つものたち、意味のあるものも、このパワーにはかなわないはずだ。

 想像することすらできないむちゃくちゃな世界がこの世のどこかにある。それは、「たとえ今この教室の中が退屈でも、どこか別の場所にいけば面白いことがたくさん待っている」ということでもある。そして“面白い”という気持ちだけで世界中を回れる人がいるというその奇矯さにもドキドキする。206pに渡る、これは世界を旅するための宝の地図だ。 (池田智恵)

 

『奇界遺産』

佐藤健寿著(写真&文) エクスナレッジ 2010年1月20日