【特集:今年のベスト本】『希望(ホープ)のいる町』

  今年いちばんを選ぶために、年末かけこみで気になっていた児童書/YAを読みあさった、という本末転倒ぶりでしたが、はからずも号泣してしまったのがこちらでした。作品社の新しいシリーズ、金原瑞人選「オールタイムベストYA」の1冊です。

 

 「ホープ」は高校生の女の子。産んですぐ姉に預けて出て行ってしまった母親がつけた名前を捨て、自分で付けた名前です。名コックのおばと一緒にウエイトレスとして働き全米各地を転々とするホープがたどり着いた店のオーナーは、町の汚職事件を追及するために病気を持ちながら町長選に立候補することに。

 複雑な生い立ち、選挙活動、不正や犯罪など、高校生にとっては過酷といえる環境を背景にしているのですが、決して悲劇にも、感動を誘う材料にもしていません。レストランが舞台だけに、料理や、厨房、給仕の仕事が生き生きと描かれていて、「希望」を感じさせます。働きながら、新しい環境にも小さな町にも溶け込んで暮らすホープに惹かれ、すっかり感情移入していました。子どもの頃、海外児童文学を読んだ時に感じたのは、こんな新鮮な驚きだったかも、と思い出しました。

 今の日本の中高生が共感するのはリアルな日常を描いた作品が主流でしょうが、不幸や病気がテーマでも、こんな味わいの作品もあるというのを知ってもらえれば、と思いました。

(神谷巻尾)

 

『希望(ホープ)のいる町』

ジョーン・バウアー作 中田香・訳(作品社)2010年3月