ぼくらは海へ

 「イチオシの1冊」というお題をいただいた時に、日本児童文学史上最大級の問題作でありながら長らく絶版になっていた作品が文春文庫で復刊されるという嬉しいニュースを聞いたので、その作品を紹介しようと思います。


 那須正幹は「ズッコケ三人組」シリーズでおなじみの、日本を代表する児童文学作家です。もちろん「ズッコケ三人組」シリーズは大傑作なのですが、それだけで那須正幹という作家を語ることはできません。長編、短編、ショートショートにノンフィクションと、あらゆる分野にまたがって世代をこえて語り継がれる傑作をものしています。
 そういった傑作のひとつが「ぼくらは海へ」です。刊行されたのは1980年1月。文字通り80年代児童文学の幕をこじ開けた問題作です。

 

 小学六年生の少年たちが埋め立て地で子供の力だけで筏を造る物語です。筏作りの模様は非常に緻密に描写されていて、ものを作り上げる楽しみを疑似体験することができます。

 しかしこの物語は楽しいだけでは終わりません。少年たちは家庭にそれぞれ複雑な事情を抱えていて、当然の帰結として物語は悲劇に向かって突き進んでいきます。

 

様々な論争を呼んだ結末については、ここでは触れないことにします。まだ読んでいない方は、文春文庫版でぜひ自分の目で確かめてみてください。30年も昔の児童文学がここまでの高みに達していたという事実に驚かされるはずです。

                                    (yamada5)

 

『ぼくらは海へ』那須正幹

偕成社文庫(絶版) 

文春文庫(2010年6月発売)