2013年

3月

08日

朝井リョウ「桐島、部活やめるってよ」

映画「桐島、部活やめるってよ」日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞おめでとうございます!

すごくよかったけどこんなメインの賞を穫るとは思わなかったので、感激もひとしおです。これからDVDを見る人も多いと思いますが、原作もぜひ読んでもらいたく、以前書いていたレビューですが、ここにものせておきます。

先日バス停で聞こえてきた、たぶん男子中学生の会話。

 

「なんか部活、行けないんだよねー。でも行ってることになってるから、シャツにギャツビースプレーしといた」「親うるせーもんな」


思わず、苦笑です。まさしく自分の子も同じようなこと言っていたので。親にしてみたら、団体行動なのに迷惑かけて!とキリキリしていたけれど、あの頃、なんだかわからないけど嫌になったり、思い詰めたり、そんなことが部活の中でたくさんあったんだっけな、と今さらながら思い出したりしたのでした。

そんなこともあって、今回は朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』です。

第22回小説すばる新人賞受賞作、著者は1989年生まれの現役早稲田大学生、という話題性はともかく、新しい青春小説として人気、評価ともに高い作品です。 

ここ数年、部活をテーマにした小説や漫画、それを原作にした映画が急増していますよね。マイナーな、書道部や文芸部、園芸部など、文化部系のいかにもドラマになりにくそうな部活がテーマになってきました。結構気になって色々読みましたが、部員同士の人間関係や、競技描写など、まさしく「部活」が描かれていて、全般的に楽しめるジャンルです。

『桐島、〜』は、少々それらの部活小説とは色合いが違います。

タイトルの「桐島」は一度も登場せず、桐島が部活をやめることによって生じたちょっとした変化が、登場する他の高校生にもたらした波紋が描かれています。

 

桐島がいなくなったかわりに、レギュラーの座をつかむことになったバレーボール部員、自分も部活を休んでいる野球部員、クラスのヒエラルキーでは「下の人」で女子にも蔑まれているけど、好きなことを続けている映画部員など、何かしら屈折した思いを持っている。恋愛、家族、友人、悩みはつきないけど、ちょっとしたことで何かが大きく変わったり、視野が広がったりする。そのきっかけが、部活であったり、同級生の桐島が部活をやめることだったりする。それぞれ葛藤をかかえていても、部活を、好きなことをしているときは、ひかりを放っている……そうだ、17歳の頃って、そんな世界だったんだ、と甦ってきます。

大人はついそんなノスタルジー読みをしてしまいますが、つい最近まで高校生だった著者が描く17歳の学校生活は、音楽もファッションも恋愛もリアルで、同世代は自然と共感するでしょう。派手な展開もなく、わかりやすいキャラクターも出てこない文芸作品だけど、もし高校生に受入れられているとしたら、部活というものの存在を、間違えなく伝えているからでは、と感じました。

(makio)

『桐島、部活やめるってよ』

朝井リョウ 集英社 2010年10月

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2013年

1月

09日

松田青子「はじまりのはじまりのはじまりのおわり」

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくおねがいします。

新年最初は明るいものを、と思ったけれど年末年始わりとヘビーなものが続き選びあぐねていましたが、年明けに届いてもうこれ以外にない!と即決したのがこの作品です。
本の好きなカタツムリのエイヴォンが、自分も本の中のような冒険がしたい、とアリのエドワードとともに「冒険を探すための冒険」の旅に出て、色々なできごとに出会い、さまざまな発見をして...という言ってみればありがちなストーリーなのですが、これが不思議なおもしろさなのです。

たとえば、エイヴォンが話すこんな一節。

「世界で一番たいせつなことは冒険なのに、今までぼくは冒険できなかったし、これからもそう。そう、きっとそうなんです。本に出てくるみたいな冒険ができないんだったら、ぼくは死ぬまで不幸なカタツムリのままだ。うわー、どうしよう!」

何だこいつは、と笑いつつ、もうエイヴォンの虜です。
アリのエドワードはですます調のすました話し方で、コンビのバランスも絶妙のバディ小説としても読めます。モノクロの挿絵といい、かつて読んだ絵本、児童書が蘇ってくるようでした。私は「クマのプーさん」(岩波文庫版)と、「スターウォーズ」のC3POとR2−D2を思い描いていましたね。

実はこの本、訳者に惹かれて注文したのでした。
翻訳の松田青子さんは今月初の単行本が出るという新人作家ですが、文芸誌「早稲田文学」に掲載していた小説が衝撃的で、気になって検索していたら出て来たのが、この本だったのです。

児童書?翻訳?と謎が多かったのですが、読んでみて大正解でした。
小説の方は、社会で働くことの難しさ、生きにくさなどを鋭い表現で描くような作品でしたが、
この「はじまりのはじまりの」は、全く違い、かわいらしくやさしく、でも深いものが感じられるいいお話でした。
先月「飛ぶ教室」新訳版の紹介もありましたが、訳者によって本を選んでみると、意外といい作品が発見できるかもしれませんね。

はじまりのはじまりのはじまりのおわり
小さいカタツムリともっと小さいアリの冒険

著:アヴィ著, イラスト:トリシャ・トゥサ, 翻訳:松田青子
福音館文庫 2012年

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2012年

11月

25日

岩貞るみこ『青い鳥文庫ができるまで』

大人気児童文庫シリーズ「青い鳥文庫」の、原稿から本になるまでの一連の流れが描かれた小説です。


著者はノンフィクション作品を中心に手がける作家ですが、自分の本を出すときに東日本大震災がおこり東北の製紙工場が被災、印刷用紙が足りない、という事態に直面したことがきっかけで、この作品を書いたとのこと。出版社が必死に用紙を手配し、印刷や製本所がぎりぎりの状態で本を作り、販売部宣伝部が調整し、最終的に書店を経て読者の元に届けられたということから、「こうした人がいて初めて、本が読者のみんなに読んでもらえるのだと痛感」して、4ヶ月の取材を経てこの本になったといいます。

 

累計200万部突破目前の人気シリーズ「白浜夢一座がいく!」を担当する編集者モモタが作家綾小路さくら先生に新作の原稿を依頼するところから始まり、校閲、イラストやデザイン手配、営業や販売担当との交渉、校正、印刷、流通、などが順を追って登場します。仕事の内容、手順などの記述は、専門用語も多用され、かなりリアル。カバーの囲う方法とか、本の平台印刷の「折り」の作り方とか、普通知らないでしょ!とか思いますが、こういう業界内部の話って意外と面白いですよね。今年本屋大賞を受賞した『舟を編む』は辞書編集の話でしたが、こちらはもっと広範囲に出版全体を網羅しています。出版業界や本に興味のある人にも、勉強になりそうです。

実際の工程も楽しめるのですが、小説として書かれているので、主人公モモタを中心にさまざまな人との関係や事件、トラブルなども出てきます。校閲担当の教授、お金の計算を担当するマダム、本のデザインをするビッグマザーなどわかりやすいキャラクターだったり、早いテンポで話が展開していくのは、青い鳥文庫読者にも読みやすそう。後半、校了(最終的な締切)間際に、ストーリーの決定的なまちがいを見つけて顔面蒼白になるというシーンで、小説の詳細が書かれていないので、まちがいの重大さがピンと来ない、というところは少し残念ではありましたが。

青い鳥文庫そっくりのカバーデザインですが、ハードカバーで版型も大きく、児童書分類のようです。そのへんの出版方針も知りたくなってくるような気がします。

『青い鳥文庫ができるまで』

岩貞るみこ 講談社 2012年7月

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2012年

9月

09日

おれたちの青空

 

第26回坪田譲治文学賞受賞作『おれのおばさん』の続編です。

 

父親が横領の罪で服役、東京の進学校から一転、母親の姉が運営する札幌の児童養護施設に入った14歳の陽介を描いたのが前作。今度は「おれたち」のタイトル通り、陽介のほか、同じ施設の親友卓也と、施設を切り盛りする恵子おばさん視点の物語の3編があります。

この2冊、両方青空バックの写真が表紙です。

 

表紙画像を取り込もうとして、アイコンをみると、ぱっと見どっちがどっちがわからず、「青空だから、空が明るい方だったかな」と開くと、より青い方が『おばさん』でした。『おれたちの青空』って、バリバリ青春小説とか、熱血先生が出てくるテレビドラマみたいなタイトルだなと思いましたが、表紙の空は、そんなに明るくないんですね。

そう思って両作品を読むと、前作は、困難にあって挫折した陽介が、さまざまな出会いや葛藤、恋も経て、生きる方向を見出していくという成長物語でしたが、続編はもう少し複雑です。

 

卓也視点の「小石のように」では、親から受けた虐待、施設職員の暴力、学校でのトラブルへの親のひどい対応、その親が破産して家出してきた友人、など厳しい問題が次々出てきます。「あたしのいい人」では、パワフルな恵子おばさんの、生まれ故郷への反発とか、立ち上げた劇団の失敗、離婚、親の介護など数々の苦労が描かれています。

 

これらは雑誌「すばる」に掲載されていたもので、児童書として読まれることを想定していないのかもしれません。でも逆に若い読者に、善悪がはっきりしないものごと、複雑で理不尽な大人、などを知るきっかけになる作品では、と思います。明るくないといっても、最後は青空につながるような爽やかさも、もちろんありますので。

『おれたちの青空』

佐川光晴 2011年11月(集英社)

 

 

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2012年

8月

14日

シャインロード

地方都市に住む女子高校生の就職活動がテーマの物語です。

シャインロードって、輝くシャインと、もしや社員をかけている?と思ったら、裏表紙に「Shine」「Shain」と書かれていました。わかりやすいです。


お話も、わかりやすく進んでいきます。北海道小樽に住む女子高校3年生三冬は、数少ない就職組。進学組に引け目を感じ、学校までの道も、みんなが通るメインの花坂ではなく、勾配がきつく暗い氷坂を通る。看護士の母親とふたり暮らしで、家のためにも早く就職を決めたいのに、何度も何度も落とされて、落ち込んでいく。。。

 

大学新卒の就活の厳しさはよく聞きますが、高校生の就職のようすはあまり目にしたことがなかったのですが、応募や結果の通知はすべて学校を通してするなど、初めて知りました。

担任の若い教師を円ちゃんと呼び、就職志望といっても特に何か努力するでもなく、「なんで私を採らないかな」なんて根拠のない自信を持っていたり、というあたり、今の子をよく表しているのかな、とも思います。

そんな三冬は、通りかかった小さな印刷所で校正のアルバイトを始めます。校正は、中学時代にクラスメートの男子から生徒会誌で頼まれたことがあり、自信があったから。やがてその印刷所に、当時校正を頼んだ男子、山川君が自費出版の原稿を持ち込んで偶然の再会。その後バイトを通じて地域や大人の社会を垣間みて、就職活動でも校正に関する会社を見つけ、山川君ともいいかんじになり、とすべてがうまく回り始めます。

わかりやすい展開ではあるけれど、ごく普通の高校生が、大きなものを目指さなくても、学校内の外の世界とうまくつながって、自分の住む地域で何かあたらしいことを見つける、というのは、実は今あたらしいのかも。装丁がまさに児童書ですが、高校生が手に取りやすい体裁だとよかったのに、と思います。


『シャインロード』

升井純子 講談社 2012年6月

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2012年

6月

18日

アート少女―根岸節子とゆかいな仲間たち

YAの定番、部活もの。これは中学校の美術部が舞台です。

 

 輝かしい成績を残した3年生が引退したあと、弱小部活として学校から目をつけられている美術部。部活の存続をかけて、部長根岸節子はじめ個性的な部員たちがさまざまな作戦を立てて活躍する、という痛快な青春物語でした。

 

逆境のなか、仲間とともにがんばり成長する、というのは部活小説の定番でもありますが、美術部という独特の存在感の部活だけに展開がユニークです。部費も部室もないため、運動部を回ってモデルを頼み、そのデッサンをファンの子たちに販売する(後にバレて返済)とか、なかなか笑えます。

 

さびれた商店街のシャッターに絵を書くバイトをしたら、地域コミュニティの活性化にも役立った、など現実的にいい話だったりします。 

 

学校評価をあげることに躍起な校長が部活を続ける条件として出した「部員5人以上」「県展の入賞」などのハードルも、ストーリーにメリハリがつくきっかけにもなっています。

 オタクやひきこもり、ミーハー女子や超個性的な不思議ちゃんら部員たちのキャラクターも、ちょうどいいバランスですね。ところどころ美術に関するうんちくが盛り込まれているのですが、不思議ちゃんの名前が草間さつきなどパロディもあったり、ネタを探すのも楽しめます。

 ところで主人公は「根岸節子」とフルネームで呼ばれたり、部員をまとめて「根岸節子となかまたち」といわれたりしていますが、確かにフルネームで呼ばれやすい子っていますよね。一目置かれているのか、存在感があるのか。根岸節子は確かにそんな子でした。

 

 主人公達と一緒にワクワクドキドキして、あー面白かった、と読み終えられる、YAエンターテインメント小説です。(makio)

『アート少女―根岸節子とゆかいな仲間たち』

花形みつる著

ポプラ社 2008年4月初版

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2012年

5月

29日

終点のあの子

 

以前読んでレビューを書きそびれていたのですが、先月文庫版が出ていたのでやはり書いておきます。

 

本書はある私鉄沿線のプロテスタント系女子高校を舞台にした連作短編集。学校の様子や立地などかなり具体的に描写しているので、おおよその目安はついてしまうのですが、東京都内のいわゆる私立のブランド女子中高一貫校での女子高生活が描かれています。

内部進学のごく普通の希代子が、高校から入ってきた自由奔放な朱里に憧れ、やがてそれが反発、攻撃に転じたり、ふだん全く別のグループにいるギャル恭子と文化系女子早智子が交流したりなど、友情、いじめ、対立などが複雑に変化していく様が、さほど重くなく淡々と連なっています。

前述のとおり、物語に登場する商品名、曲名などの表現が細かく、実名のものも多いので、登場する女の子達が想像しやすいのが特徴的です。

中学から変わらないアッキーが好きなのが無印の干し梅と赤西君、地味グループを脱したい奈津子が聞いているのがチャットモンチー、相対性理論を聞くサブカル好きカトノリが、クラスの中心の恭子の彼が車でEXILEを流していると莫迦にしていたり、など絶妙な選択では。

 

また住んでいる地域も、立会川、神泉、町田などの地名が書かれ、通っている子たちさまざまなバックボーンや生い立ちが想像できます。

著者は収録作「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞、1981年生まれだから女子高校生の感覚には近いのでしょう。連作の最後「オイスターベイビー」は朱里の卒業後の大学時代を描いていますが、女子高感覚が濃厚に漂い、少々痛々しい仕上がりになっていますが、それもまたリアルなのでしょうか。児童文学作家ではなく、本作以降は一般向けの小説を発表していますが、若い読者向けの作品も読んでみたいと思いました。(makio)

『終点のあの子』

柚木麻子著 文藝春秋 2010年5月

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2012年

4月

10日

ピース・ヴィレッジ

 

震災以降、何かしらその影響がある作品が多数発表されていますが、児童書ではどうなんだろう、と思っていました。この作品は直接触れられている分けれはないものの、社会的に複雑な環境の中で成長していく姿が、子どもの目線で描かれている、と感じました。

主人公は、米軍基地のある町に住む小学6年生の楓。アメリカ人兵士やインド人の店員など外国人がまわりにたくさんいて、お父さんが経営するスナックも米軍相手の店。お母さんの妹は料理家らしいけれど、ふらっとどこかへ出て行って帰ってきません。親友紀理ちゃんのお父さんは活動家で、一人反戦のビラを撒いていて、入院したお父さんの代わりに、中1の紀理ちゃんもビラ配りをするといいます。

 

楓はテレビの戦争の場面が怖くて夢にまで出てきて、いつ起こるかと思うと不安で仕方がないのですが、お母さんには「起きやしないって」といなされます。

そんな様々なことを、子どもの楓はフラットに体験し、無意識のうちに自我に影響を受けている様子がわかります。善悪や優先順位など大人の論理ではなく、自分自身が感じることを、時間をかけて表現していく過程が描かれていて、読む方もじっくり向き合うことを求められる物語でした。

 (makio)

『ピース・ヴィレッジ』
岩瀬成子著
偕成社 2011年10月

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2012年

3月

12日

鉄のしぶきがはねる

第27回坪田譲治文学賞受賞作品です。

 

前回の受賞作、佐川光晴『おれのおばさん』は児童養護施設が舞台でしたが、今回は工業高に通う、学科唯一の女子高校生が主役です。

 

なじみのない世界の作品は、それだけで新鮮で珍しいものを読む楽しみもありますが、そういえば子ども時代に読む本は、ほとんどが知らない世界の話で、珍しさを楽しむ読み方は、児童書を読んでいる感覚に近いのかも、と思います。

さてお話は、工業高校機械科1年、部活もコンピュータ研究部という理系女子、三郷心を中心に進みます。心の家は、おじいちゃんが興した金属工業の工場だったけれど、ある事件から廃業。それ以来、旋盤技術よりコンピュータが進んでいる、と信じています。しかし学校の「ものづくり研究部」に誘われ、旋盤作業をするうち、職人技の魅力に目覚め、先輩や仲間との関わりを深め、やがてものづくりコンテストをめざします。

 

工業高校に通う女子といえば、ドラマ化もされた、漫画『アスコーマーチ』があるので、ちょっと印象がかぶるかもしれませんが、この本の醍醐味は、旋盤技術の詳細な描写でしょう。100分の1ミリを争う技術、用具や技術の名称、削り出す音や手に伝わる感触など、読みながら追体験しているようで、オタク的感覚がめばえてくる気がします。その分、人物の内面や、恋愛の部分に関しては少々手薄に思えましたが。

同級生の男の子の、技術があるからこそのやんちゃないたずらや、それを鷹揚に受け止める先生のくだりが、小さなエピソードですが、かなり好きなパートでした。 (makio)


『鉄のしぶきがはねる』

まはら三桃 著 講談社 2011年2月

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2012年

2月

27日

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち

 

本の雑誌が選ぶ2011年度文庫ベスト第1位、本屋大賞候補、と大人気の作品です。

 

鎌倉の片隅でひっそりと営まれている古書店、店主の栞子さんは黒髪の美しい女性、大怪我を追い、ただいま入院中。人見知りでおとなしいが、本の知識は並大抵でなく、古書を目の前にすると人が変わったように生き生きして、病院にいながら数々の謎を解く。と、読者を引きつける要素満載の設定です。

古書や文学の部分は本好き、黒髪の眼鏡美女描写はラノベファン、舞台の鎌倉は大人女性、とそれぞれ読書対象が違うのでは、という気もしましたが、それぞれが濃すぎずほどよくブレンドされ、みんなが好きなミステリーを軸に話が進むので、誰からも好感が持たれるのかもしれません。そんな傾向のヒット作が最近多いですね。最近の児童新書にも通じる物があるかも。

 

そんなわけで人によって好きなポイントが違いそうですが、ティーンズが共感しそうなのは、女子高生が登場する第二話、「小山清『落ち穂広ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)」。恋愛に夢中な女子高生と、貴重な古書。相容れないものが出会い、起こした行動や、巻き込まれた人々と関わり変化していく様子が、さわやかです。

 

実際若者が古書にふれることはあまりないと思いますが(新古書でなく)、本がわざわざ「紙の本」と呼ばれるようになった今、スピン、アンカット、小口、初版本など、「紙の本」ならではの表現を楽しむ、という読み方もあるかもしれません。 

(makio)

『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』

三上 延 著 メディアワークス文庫 2011年3月

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2011年

12月

20日

【特集:2011年のベスト本】『この世のおわり』

今年の始めに一度レビューをアップしたのですが、1冊となるとこれかも...ということで再掲します!

 

キリスト教の終末論を柱に、この世の終わりを食い止めようとする修道士と吟遊詩人、不思議な少女の3人がヨーロッパを旅する、壮大な物語。『漂泊の王の伝説』で日本でも注目されたスペインの女性作家、ラウラ・ガジェゴ・ガルシアが20歳の時に書き上げたデビュー作です。

主人公たちは、世界を救うために必要な3つの宝石「時間軸」を探す旅に出ますが、それを阻む闇の秘密結社や強欲な権力者との手に汗握る攻防を繰り広げます。か弱く書物に夢中で修道士のミシェルと、たくましく世事に長けている吟遊詩人マティウス、独立心旺盛な少女ルシアという3人の絶妙なバランス、歴史ファンタジーや冒険物語としての面白さなどはもちろんですが、非常に魅力に感じたのは、懐の深さ、柔軟性のようなものです。

本作も、先に翻訳された『漂泊の王の伝説』もスペインの児童文学賞「バルコ・デ・バポール児童文学賞」受賞ということで、日本でも“名作児童文学”的な扱いなのか、ハードカバーA5版の児童書サイズで、格調高い表紙になっているのが、少し残念。手に取るハードルも高そうですよね。主人公含めキャラクターが秀逸で、せめて表紙でイラスト化したらいいのに、と思います。マティウスの連れているオオカミ犬シリウス含め、主人公たちの姿は、ライトノベル好きな日本の若者にも受けそうな印象です。

(makio)

 

『この世のおわり』

ラウラ・ガジェゴ・ガルシア作 松下直弘訳(偕成社)2010年10月

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2011年

11月

15日

初恋素描帖


 雑誌『セブンティーン』を見ていたら、ブックコーナーに紹介されていた『初恋素描帖』。3冊のおすすめ本はコミック、イラスト集とこの本で、小説はこれだけ。女の子が読みたそうな小説って数少ないんだなとあらためて思います。


 この本は2008年に単行本で刊行、この夏に文庫化されました。どちらも「ソラニン」の浅野いにおがカバーイラストを手がけていますが、文庫はより漫画タッチになっていて、今風です。中にも登場キャラクターや恋の相関図の浅野イラストがあって楽しめます。

 

 登場するのは中学2年生で、テーマは初恋。今の子にも入りやすい装丁で、まさにリアル中学生向けの本にも見えますが、子ども向けとして書かれた作品ではありません。中学2年の1クラス、20人の恋愛がそれぞれの一人称で語られ、クラスの人間関係や心の中の葛藤など、きれいばかりじゃないものが徐々に見えてくる、深い味わいがあります。

 著者が文庫あとがきで中学時代の“特別さ”を書いていますが、その思いをあたため描かれた作品なので、大人にも共鳴するのではと思います。

 でも主人公中心の友情や恋愛だけではなく、目立ない子も嫌いな子も、クラスすべての子が等しく描かれている小説というのは、ティーンズには意外と新鮮かもしれません。『セブンティーン』評の「同クラの話したことないあのコも、こんな恋をしてるのかなぁって思うと、親近感わいてくるよね」は、まさにそのとおり。本好きな子もそうじゃない子も、何かしら感じる作品だと感じます。                     

      (makio)

『初恋素描帖』

豊島ミホ著 メディアファクトリー 2011年8月(文庫版)

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2011年

10月

30日

舟を編む

 この本の話をしていたら中学生の子どもが「それ、先生が授業中話してた」と言っていました。辞書をつくる編集部の話は、確かに大人よりもずっと辞書をひく機会の多い中高生にもリアルに面白いかもしれません。

 

 出版社の中では地味な存在の辞書編集部、定年間近の老編集者が後継者として迎え入れたのが、営業部で持て余されていた馬締(まじめ)光也。

 言葉への独特な情熱を持つまじめのオタクぶりや、日々の生活、時代がかった恋愛の顛末もおもしろいのですが、彼の存在が編集部に、また辞書そのものに新しい風を吹き込んでいくさまに惹かれます。

 

 辞書に興味のないチャラ男の西岡、ファッション誌から異動になった岸辺、それぞれがまじめとは違う視点で言葉をとらえ、それがまじめ曰く「血の通った辞書」にするのに役立っていく場面にぐっと来ました。

 冒頭の先生が話していたというのもそのあたりで、「愛」という単語の例に「愛妻。愛人。愛猫。」というのはまずい、と岸辺が指摘するところ。先生、いいセンスです(笑)。

 

 用語採集カード、執筆者への依頼、用紙の開発など、辞書を作る過程そのものも興味深い。辞書にあとがきがあり、謝辞があるということにはじめて気づきました。装丁は渋いですが、帯、表紙に描かれた漫画風イラストが、若い読者も呼んでいるようです。

(makio)

 

『舟を編む』

三浦しをん/著 光文社 2011年9月

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2011年

10月

12日

超絶不運少女1 ついてないにもほどがある!

 

 今年5月にスタートした青い鳥文庫の新シリーズです。


 作家名をどこかで見た気が、と思ったら、以前紹介した『ユリエルとグレン』の作者でした。

 講談社児童文学新人賞佳作でデビューし、昨年児童文学者協会新人賞を受賞、いよいよ青い鳥デビューと、児童書作家として順調に歩んでいるようです。

 

 小学6年生の女の子・花は、ことあるごとに災難がふりかかる不運体質。逆にラッキー体質の親友・蜜や、幼なじみでクールな男子荒野に助けられつつ、明るく元気でクラスを盛り上げる人気者です。

  しかし花と蜜のこの体質は、死神が実験のために仕組んだものだったーーということが、プロローグで語られています。異世界に運命を左右される女の子のお話、このシリーズ読者の好奇心をくすぐる設定です。

 

 そのうえ運が悪いことを気にせず、ひたすら前向きな花は、死神の思い通りにはならない予感。人間界に忍び込んだ死神との関係も面白なっていきそうです。花が恋愛体質ですぐにイケメンにひとめぼれとか、逆に花に思いを寄せる同級生ライバルとか、小学生的な恋愛要素もあり、エピソードのバリエーションも広がりそう。高学年女子にはツボがたくさんあるのでは。

 名作の新訳やヒット作の新書化、ノベライズ作品などが多い児童書新書の中で、青い鳥文庫は新しい作家や、書き下ろしのシリーズが次々出てきていますね。出版社ごとの傾向が見られるようで、興味深く観察しています。

(makio)


『超絶不運少女1 ついてないにもほどがある!』
石川宏千花/著 深山和香/絵
講談社青い鳥文庫 2011年5月

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2011年

10月

01日

ぼくがバイオリンを弾く理由

 第1回ポプラズッコケ文学賞奨励賞受賞作です。スカイエマ挿画つながりで探したら、文学賞受賞作にたどりつきました。

 

 自信満々で臨んだバイオリンコンクールで落選、バイオリンをやめようと決意した小学5年生のカイト。寄宿していた神戸から自宅のある広島に戻り、さまざまな出会いを通じて成長するひと夏の物語でした。

 コンクールのために派手な演奏をするライバルへの抵抗、家族からひとり離れてのレッスン生活、ずっと一人っ子だったのに兄弟が生まれると知った驚きなど、少年のたまった不安が爆発するに十分なはじまりでした。

 

 会場を飛び出して戻った広島駅で父親と出会い一緒にお好み焼き屋に入るのですが、お好み焼きを焼く職人技の描写が続き、夢中で食べるうちに不安がだんだんとほぐれていくという場面が印象的でした。緊張感あふれる神戸からゆったりした広島の夏へと、スムーズに展開していく転換点となっていました。

 

 その後の、元同級生のサッカー少年、いとこや近所のおばあちゃん、音楽家たちとの出会いは、どれもカイトに寄り添う、いい話です。広島という背景なので、戦争や原爆にまつわる部分もあり、そこも成長のきっかけになっています。少しうまく行き過ぎ?という気もしないでもないですが、前向きで爽やかになれる読後感でした。

(makio)

『ぼくがバイオリンを弾く理由』

西村すぐり著

ポプラ社 2008年10月

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2011年

9月

24日

六本木少女地獄

 

現役女子高校生による、戯曲集です。

著者の原くくるは高校中退後、チャレンジスクールである都立六本木高校に入学して3人しかいない演劇部に入部。表題作の脚本、演出、出演をつとめ、都演劇コンクールで教育委員会、関東高等学校演劇研究会で優秀賞などを受賞して注目され出版に至ったという話題の作品です。

 

星海社のサイト「最前線」で無期限無料で表題作全文を掲載、ウェブ上で読んでみました。

物語はいくつかの設定が入れ子に絡み合って進みます。

六本木で出会う家出少女と不登校少年、両親不在の姉弟、想像妊娠する少女と家族など、くるくると場面転換しながら、それぞれの関連が明らかになってきます。

 

適度なギャグや、いまどきな会話、テンポの早い展開など、笑いの要素がふんだんにありながら、家族、身体、性などに関わる若者の深刻な悩みも徐々に浮き彫りになっていく、その“物語感”とでもいうようなものに、正直圧倒されました。

 

ここ何年間か高校演劇を見る機会があり、上手いとか、いい作品というのもあったもののやはり「高校生の演劇」という枠をまず感じる気がします。しかしこの作品はそういった括りの一切ない、突き抜け感がありました。これを高校生3人でどう演じたのか、見てみたかったですねー。

朝日新聞のインタビューで「自分のいるところだけを世界だと思っている人に、違う見方を提示したい」「同世代に読んでほしい」と著者が語るように、上の世代が面白がるより、ティーンズが読む機会ができるといいな、と思います。

(神谷巻尾)

『六本木少女地獄』

原くくる/著 竹/イラスト 

星海社 2011年8月

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2011年

9月

14日

トワイライト1 愛した人はヴァンパイア

前回ニャン左衛門さんが「スカイエマさんの挿絵作品から探した」と書いていたので、挿絵切りで読んでみた本を選んでみました。表紙、挿絵がゴツボ×リュウジさんイラストの『トワイライト』です。


ゴツボ×リュウジさんは漫画家ですが、YA作品では伊藤たかみ『ぎぶそん』の表紙が印象的でした。児童書でも秋木真『ゴールライン』、はらだみずき「サッカーボーイズ」シリーズの角川つばさ文庫版など、よくみかけます。今の児童新書主流のラノベ風イラストよりはもう少しすっきりして青年漫画タッチの絵柄がシャープな印象です。『トワイライト』は単行本全13冊のイラストを手がけていますが、装丁含みかなりお洒落です。

さて、この小説は全世界で7000万部突破というヴァンパイア・ロマンス。「ハリー・ポッター」シリーズに次ぐ人気シリーズで、アメリカではティーンズの女の子に熱狂的に支持されているそうですが、日本ではそこまでではないでしょうか。しかし「転校してきた女子高生と、謎の美少年(しかも吸血鬼?)との恋」というのは期待するに十分な設定。現代的なアメリカの高校生ライフと、土地に根付く伝説や風習、超常現象などが混ざりあい、展開もミステリアスで新鮮に読めました。背景とストーリーに没頭してぐんぐん読む、というエンターテインメント小説の醍醐味を味わえそうです。

最近女の子が読む本は、身近だったり共感できる内容が人気のようですが、全く違う文化モノに手を出すきっかけとして、いいシリーズなのでは、と思います。自分の車で通学とか、ダンスパーティーの相手を女子から申し込むなどのも面白いですし、逆に恋愛のことばっかり考えているのは万国共通なんだな、とほほえましかったり。人間と吸血鬼のロマンスから始まる壮大なサーガ、というとファンタジー好き以外は手にとらないかもしれませんが、この表紙の印象で、かっこいい恋愛モノ、と思って読んでみるのもあながち間違いではない気がします。

(神谷巻尾)


『トワイライト1 愛した人はヴァンパイア』

ステファニー・メイヤー/著 小原亜美/訳 ゴツボ×リュウジ/イラスト

ソニー・マガジンズ 2005年8月

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2011年

8月

28日

ピアチェーレ 風の歌声

 公募新人賞の、第8回日本児童文学者協会・長編児童文学新人賞受賞作品が単行本化、その年の第21回椋鳩十児童文学賞を受賞という華麗なデビューを飾った作品です。

 

 その背景や、表紙、装丁、タイトルなどから正統派の児童書、という印象がありますが、作品自体は意外とライトな読み心地でした。

 母親が亡くなった後、父親は別な家庭を持ち、祖父母、叔母、弟と暮らしている中学生、嘉穂。父にも、一緒に住む家族に遠慮して、部活も習い事もせず、すすんで手伝いをする、いわゆる「いい子」ですが、無理をしている自分にも満足できないでいます。

 

 あるきっかけから声楽に目覚め、才能を認められ先生について習い始めてから、自分自身も変化していく、という成長物語です。

 歌の才能に目覚め、周りも驚き、その音楽に圧倒されていく、というのは、漫画でも最近多くみかけますが、この作品もそれに通じるものを感じました。絵や文字という二次元で音の様子が再現され、それを読み手が感じる、という読み方に慣れているティーンズにも受入れやすいのでは。

 

 友達の片思いや、その相手であるピアノの才能ある男子、その母親である声楽の先生、など登場人物もイメージしやすく、ちょっと少女漫画風なイメージもあります。ハードカバーでまじめそう、と思わず気軽に読んでほしい作品でした。

 

『ピアチェーレ 風の歌声』

にしがきようこ 小峰書店  2010年7月

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2011年

8月

19日

皿と紙ひこうき

 

 第51回日本児童文学者協会賞受賞作品です。

 

 著者の作品は初読ですが、『卵と小麦粉とそれからマドレーヌ』『レモン・ドロップス』などのタイトルから、若手の作家の方だと思っていました。そして、読み終わった後もそのイメージは変わらず。爽やかで、初々しい少女の物語だったからでしょうか。

 九州の山奥、陶芸家の小さな集落で生まれ育った由香は、ずっと変わらない日々を家族と幸福に過ごしている。高校に入ってこれまでとは違う世界を知り、新たな人々と出会い、いろいろなことを考え、感じるようになる。そんなお話です。変わることのない皿と、飛んでいく紙ひこうき、タイトルも象徴的ですね。

 あとがきで、舞台の大分県日田市はテレビCMで知り、その風景のなかで物語を書きたいと取材したとありました。土地の言葉や陶芸の作業のようす、街並などとても自然に描かれ、作者に縁のある土地なのかと思っていたのですが、そういわれてみれば、1日3本だけのバス、「皿山の子」という呼び名、家族の強い絆などの心温まる描写は、作者が心惹かれた風景だからこそ出来たお話なのかもしれません。

 由香の親友、絵里の男子への憧れや、部活の先輩の少し大人びた姿、東京からの転校生伊藤卓也への視線など、この年頃の女の子なら誰でも、どの時代でもくすぐられるような要素がきれいに収められている印象です。少し余裕のあるとき、夏休みとかに、家や図書館でのんびり読むのにぴったりな気がします。

(神谷巻尾)

 

『皿と紙ひこうき』

石井睦美 講談社 2010年6月

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2011年

8月

09日

ある小さなスズメの記録

 

 先週の『週刊文春』、「第4回 本屋さん大賞」で絵本・児童文学の分野で第4位になっていたのが本書です。

 そうかこれは児童書ともいえるのか、と思い今回ご紹介です。

 

 第二次世界大戦中のロンドン郊外、ピアニストの老婦人が足と翼に障碍を持つ小スズメを拾う。献身的な愛情に包まれて育った小スズメは、やがてさまざまな芸を覚え、空襲下で不安を持つ人々希望の灯火となっていく。本書は著者である婦人が、小スズメ・クラレンスの生涯を克明に描いたノンフィクションです。

 

 1953年に英国で出版されベストセラーになり、日本でもこれまで3度翻訳されたとのこと。2010年11月、梨木香歩訳、酒井駒子装画で文藝春秋から再出版され、各方面で話題を呼んでいました。

 正式な書名は、サブタイトルに「人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯」が入りますが、このタイトルは、訳者梨木氏の「物語ではなく、記録であることをはっきりさせたい」との希望によるとのこと。

 確かに本書は、瀕死の動物を育て、人々に感動を与える、という物語的な側面以外の、老婦人の記録としての文章が秀逸です。野生の鳥の観察記としても非常に優れているとのことですが、冷静に客観的な視点と、溢れ出る愛情、英国らしいユーモアが、おそらく梨木訳のおかげでより一層美しい読み物となっているのでしょう。

 私がこの本を読んだのは大震災翌月の、小説があまり読めなかった頃。しかしこのドキュメンタリーにはいつのまにか没頭していました。戦時下のロンドンという時代背景にはあまりなじみがありませんでしたが、老婦人とクラレンスの暮らしの情景はまさしく目に浮かぶようです。

 

 函入りの美しすぎる装丁、児童書ではなじみのない出版社で、ティーンズは手にとりにくそうですが、機会があればぜひ、とおすすめしたい1冊です。 

(神谷巻尾)

『ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯』

クレア・キップス 梨木香歩[訳] 文藝春秋 2010年11月

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2011年

7月

31日

円卓

 最近面白かった本、として各所で聞いたのが、西加奈子『円卓』です。

 

 YAジャンルではありませんが、『さくら』『きいろいゾウ』などで若い読者も多い作家、という印象はありましたが、実は内容紹介など(感動作、というような)から、少々手が伸びにくかった気がします。

 

 しかし『円卓』はよかった! 若い世代にもおすすめしたい作品です。

 大家族に愛され、裕福ではないけれど幸福に暮らす小学3年生の琴子(こっこ)は、その凡庸さを毛嫌いし、8歳にして好きな言葉が「孤独」。複雑な境遇の同級生に憧れ、気になる言葉を自由帳に書き付け、不満や疑問を抱えながらも奔放にふるまうこっこのほほえましい物語、として前半は進んでいきます。関西弁のしょうもない会話と、こっこの心のモヤモヤがいい具合にバランスよく、笑えます。

 

 このまま「いいお話」で終わるかと思いきや、中盤から趣が変わります。悩みや憧れが自分の頭の中だけで完結していたこっこが、ある出来事に遭遇し、初めての感情を実感として知ることになります。少々不穏な描写もありますが、そのカタルシスが清々しく、他者との新たな関わりにつながるラストは感動的でした。

 「こっこは小三だけど中二病」と評していたレビューがありましたが、確かに。著者ブログで「小学三年生を経験したすべての方に」読んでほしい、とありましたが、つい最近まで小学生だった中二あたりにこそ、すすめてみたい気がします。

(神谷巻尾)

『円卓』

西加奈子 文藝春秋 2011年3月

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2011年

7月

25日

ピアニッシシモ

 講談社青い鳥文庫の中学生向け、「Yシリーズ」第一弾です。

 

 人気のYA作家の作品を、イラスト入り、ルビ入りで青い鳥文庫にパッケージ、小学校高学年〜中学生の女の子が手に取りやすい装丁になっています。黒魔女さんや若おかみで青い鳥ファンになった女の子たちに、次に読んでもらいたいシリーズとして期待が感じられます。

 本書は講談社児童文学新人賞でデビューした著者の2作目で、2003年に第33回児童文芸新人賞を受賞した作品です。

 

 ごく普通の中学3年生松葉と、裕福で美人、ピアニストを目指す紗英、2人の少女はピアノが縁で出会い、お互い急速に惹かれあいます。接点のない2人ですが、それぞれ家庭環境に反発しています。松葉の両親は家族思いで明るい家庭を築いているようですが、父が食玩コレクター、母がブランドや流行りもの好きで、紗英の家は母も祖母も叔母も男運が悪く女系家族で暮らし、紗英のピアノに過度の期待を抱いています。大人たちの自己中心的な言動がこれでもかと描かれ、大人の読者としては肩身が狭い思いです。

 他にも学校の先生や芸術家気取りの若者など、身勝手な大人が登場し、中学生は傷つけられます。嫌な大人やいじめなどのテーマって、実際のところティーンズ読者はどんなふうに受け止めるのかな、と思い中学生の娘に聞いたところ「ただ面白いだけなんじゃ?」とのこと。意外と淡々と読んでいるのでしょうか。


 物語は、紗英の恋愛を機に、松葉自身の行動も変化し、それぞれに家庭や学校と折り合いをつけていきます。成功や感動といった単純な結末ではなく、葛藤もあり読者自身の読み方も問われるような終盤は、それまでの青い鳥読者には初めての体験かもしれず、読書の幅が広がっていくのではないでしょうか。                        

(神谷巻尾)

 

 

『ピアニッシシモ』

梨屋アリエ 講談社青い鳥文庫 2011年6月(初版2003年)

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2011年

7月

11日

ラスト ラン

 

 『魔女の宅急便』の角野栄子は、今年作家デビュー40周年とのこと。本書は著者の自伝的小説で、初の一般書とのことです。

 

 ただし“ノンフィクション・ファンタジー”とあるように、印象としては『魔女宅』のようなファンタジー児童書。著者の回顧的なお話かという予想の枠を大きく超えた、読み応えある作品でした。

 

 主人公のイコさんは、ファッションデザイナーを引退した74歳の独身女性。残された時間に何かやろうとバイクを購入、幼い頃死別した母親の写真を思い出し、母の生家に旅することにします。たどり着いたその家は、空き家のはずなのに、12歳のふーちゃんと名乗る女の子が。しかも他の人には見えないのに、イコさんだけには見える。「行っちゃ、やだ」というふーちゃんを残しておけず、バイクに乗せて、ふたりのツーリングが始まります。

 みずから「ゆうれいなの」というふーちゃんは、当時お気に入りのワンピースを着て当時の世界にいるかと思えば、今どきの女子高校生の言葉づかいを覚えていたり、将来自分が成長した時の記憶も断片的に出てくるなど、あの世に行けず中途半端なところに存在しているというかんじが伝わってきます。

 

 ふーちゃんや旅の途中で出会うゆうれいたちと接するイコさんが、困惑したりぼやいたりしながら、現実とあちらの世界とをバランスをとる姿もなんとも楽しい。冒頭からテンポよく物語が進み、しかも予想の枠を超える展開がいくつもあり、最後まで引き込まれます。

 著者インタビューで「12歳から74歳まで読んでほしい」と語られていましたが、どの世代も、特に女子にはツボのポイントがありそう。もっと下の、小学生でも十分楽しめそうです。装画が「サマー・ウォーズ」のコミカライズを手がけた杉基イクラ。長編アニメを予感させるような表紙です。

(神谷巻尾)

『ラスト ラン』

 角野栄子(カドカワ銀のさじシリーズ)2011年1月

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2011年

6月

27日

「YA*cafe」に参加しました

 作家の梨屋アリエさんが主宰する読書会「YA*cafe」に参加してきました。

 YA*cafeは、“YA作品を読む人、YA作品を知りたい人が、誰でも参加できる読書会”として2010年12月にスタート。2ヶ月に1回テーマの本を読んで集まり、感想を話しあったり、おすすめのYA作品を紹介するという会です。面白そう!と思いつつタイミングを逃していましたが、4回目にしてようやく参加することができました。

 今回のテーマ本は、ドイツの作家、グードルン・パウゼヴァングの『みえない雲』

 ドイツの原子力発電所で爆発事故が発生、弟と2人家に残された14歳の少女の、過酷な避難生活を描いた作品です。

 

 チェルノブイリ原発事故翌年に発表され、ドイツ児童文学賞も受賞したこの作品は、日本でも児童書として刊行されました。本国では教材として使われたり、コミック版も出るなど20年以上読み継がれては、2006年に映画化、日本での公開に併せて文庫版が出ました。そして今回の大震災と福島第一原発事故を受け、あらたに訳者あとがきが加筆された文庫が6月に刊行しています。

 

 帯に「3.11以降の日本、いまこそ読みたいこの1冊」とありましたが、読後確かに実感しました。放射能の恐怖にパニックに陥る人々、錯綜する情報、被爆の影響などこの作品で描かれる世界はかなりショッキングで、原発事故の影響下にある今、胸に迫るものがあります。参加者のあいだでも、自然と今回の事故や原子力発電について、電力需要と経済発展について、と会話が発展していきました。内容についても、主人公のヤンナ–ベルタの感情の起伏や、とりまく大人たちが象徴するものについてなど、みなさん丹念に読み込まれていて、勉強になりました。

 読書会というものの自体初体験でしたが、なかなか手に取ることのない本に出会う、という楽しみを味わえました。高校生から60代と、幅広い年代の方と同じ本を通して話し合うというのも新鮮でした。今回の関連書籍や、最近読んだおすすめの本、今後取り上げたい本についても盛り上がり、こちらも参考になりました。teensbooksでも紹介していければと思います。梨屋さん、参加のみなさん、ありがとうございました!

 

 次回は10月30日とのこと。興味ある方は、ぜひどうぞ!

(神谷巻尾)

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2011年

6月

17日

しあわせは子猫のかたち

 

 角川つばさ文庫版、乙一作品です。2000年に角川スニーカー文庫『失踪HOLIDAY』に収録の形で発表、つばさ文庫では同じ2作品を、表題作を変えて刊行となっています。


「しあわせは子猫のかたち」は、孤独に生きる大学生が、引っ越し先で先住者の幽霊と、彼女が残した子猫と暮らしながら、しだいに心を開いていく、というお話。過去の事件やミステリー、人との交流など、60ページ程度の短編にさまざまな要素が入り、しかもユーモアもありつつ、感動も覚えます。(黒い方じゃない)乙一の魅力が凝縮して、まさしく良作です。

 そう考えると、わざわざこの短編を表題作にしてつばさ文庫レーベルから刊行したのもうなずけます。

 表紙も、水彩画タッチの女の子から、ラノベ挿画風のメガネ男子となり、小中学生の女の子たちがいかにも手に取りやすい。読めば面白いに決まっているので、そこから乙一ワールドに入っていく子が増えれば、つばさ文庫の作戦勝ちといえるでしょう。

 「失踪ホリデイ」(タイトル変更)の方も、コメディタッチのミステリー、謎解き部分も読み応えがあり、児童書新書読みの女の子たちが気に入りそうです。

 実は、つばさ文庫初挑戦でしたが、うまいなあ色々な意味で、というのが実感でした。

(神谷巻尾)

『しあわせは子猫のかたち』

乙一(角川つばさ文庫)2011年2月

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2011年

6月

08日

鍵の秘密

 1998年に第4回児童文学ファンタジー大賞奨励賞受賞作品です。大幅に加筆修正され2010年11月に刊行されました。


 刊行時に、「著者は超長編しか書かない」というような情報をどこかで見て気になっていました。本書は696ページ。A5版ハードカバーでずっしり重く、何度か外出に持っていき後悔しました……。確かに子どもの頃読んだ長くて厚い本は、図書館や家で読むものでした。子どもの本も新書など軽い本が増えているけど、「持ち歩かない本」も児童書の魅力のひとつかもしれません。

 物語は、主人公の小学生ノボルが、別の世界に出入りできる鍵を拾ったことから始まります。鍵の向こうには、悪の手によって闇に閉ざされた城があり、陰謀によって捕われた王女が助けを求める手紙と鍵を、救うべき人物に託す。その選ばれた人物が、ノボルというわけです。ノボルの父親は2年前に突然失踪していて、そのことと関係あるかもしれない、と考えて別世界に向かい、さまざまな人物との出会いや、こちら側にいる友だちとの葛藤などを経ながら冒険を繰り広げます。

 もう一つの世界、選ばれた者、悪の陰謀、囚われの姫など児童ファンタジーらしい設定や、勇気・友情・冒険などが絡み合う展開で、ある意味安心して読めました。ハリポタの次に何を読めばいいかわからない、という子どもたちにも入りやすいのでは。主人公が日本人で、学校や友だちの描写も多いので、共感を持ちやすいかもしれません。

 

 異世界で賢者や占い師と冒険しながら、父親のことを思い葛藤するノボルが、少し気負いすぎな印象もありますが、学校で合唱の練習をしたり、親友と暗号で手紙をやりとりする小学生の生活に、安心感があります。テープ起こしの仕事やヨガ教師になるための学校に通うお母さん、近所に住むさみしいおばあさん、北川さんも、いい存在です。このあたりが、海外ファンタジーにはない面白みでしょうか。

(神谷巻尾)

『鍵の秘密』
古市卓也(福音館書店)2010年11月

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2011年

5月

27日

宇宙のはてから宝物

 今年度児童文芸新人賞受賞作です。

 

 主人公は小学6年生の女の子、あかり。「好きなものは、いちごキャンディーと、ぞうのぬいぐるみのスージーと、由宇。由宇はあたしのことを宇宙一わかってくれる男の子」とか、「多感な女の子のあかりと、彼女をそっと見守る由宇の心温まるお話」などの紹介文をみると、夢見がちな友情物語かと想像しましたが……そのイメージとはかなりギャップのある、ダークな側面のある作品でした。

 宝物箱やぬいぐるみを手放せないというのは、6年生にしては幼すぎる設定ではと思ったら、実はふたりともかなり深刻な家庭環境にいました。

 あかりの母親は「心の病気」で外出ができず、由宇の母はアルコール依存で夫婦喧嘩が耐えない。そこから逃げたり、反抗したりする術もないふたりは、なんとか折り合いをつけるために心のよりどころとして宝物や、想像の世界を持っている。その状況がわかるにつれ、いちごキャンディーとか、ぞうのスージーなどへの見方が変わってきます。

 ただ、親への複雑な心情、クラスメートや教師に対するいらだち、またそのなかで見つける楽しみなど、ふたりのストレートな行動や表現が子どもらしく、陰湿さに向かわないところが好感が持てました。

 タイトルや、こみねゆらのほのぼのイラストで手に取ると、裏切られた感はあるかもしれませんが、別の意味で収穫はあると思います。

(神谷巻尾)

 

「宇宙のはてから宝物」

井上林子作 こみねゆら絵

文研出版 2010年12月

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2011年

5月

13日

GOSICK

 人気作家桜庭一樹の、ティーンズ世代向けのライトノベルです。

 

 富士見ミステリー文庫から2003年に刊行され、その後レーベルがなくなり角川ビーンズ文庫、角川文庫で復活、シリーズ新刊も続き、2011年1月からアニメも始まり今また大注目の模様。中学生にも人気、と聞き読んでみたら、面白い!桜庭作品ですからそりゃ当然ですね。でも、若い世代向けの小説として、今受入れられる要素がもれなく詰まっていると感じました。

 第二次大戦前、西欧の架空の王国を舞台に、図書館塔最上階に鎮座する頭脳明晰な美少女と、日本からの素朴な留学生男子のコンビが、不思議な事件の謎を解くミステリー、という設定が秀逸です。歴史、学園、天才、美少女、オカルト、ミステリーなど、誰もがどこかしらにひっかかるものがありそうです。

 キャラクターや会話はラノベ風、ミステリーはオーソドックスで古典的、近代西欧の学園生活や街の情景を愛でる楽しみもあり、これから読書の幅を広げていく中高生にうってつけではないでしょうか。イラストの入らない角川文庫版に、もとからのライトノベルファンは抵抗があるようですが、逆にラノベ読みではない、もっと低年齢層や女の子にも間口が広がっていくのでは、と期待します。

(神谷巻尾)

『GOSICK ―ゴシック―』桜庭一樹

(角川文庫、角川ビーンズ文庫など)初版2003年

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2011年

1月

22日

この世のおわり

 もう少し早く読んでいたら、昨年のベスト本に入れたのに…と、思える1冊でした。

 

 キリスト教の終末論を柱に、この世の終わりを食い止めようとする修道士と吟遊詩人、不思議な少女の3人がヨーロッパを旅する、壮大な物語。『漂泊の王の伝説』で日本でも注目されたスペインの女性作家、ラウラ・ガジェゴ・ガルシアが20歳の時に書き上げたデビュー作です。

 主人公たちは、世界を救うために必要な3つの宝石「時間軸」を探す旅に出ますが、それを阻む闇の秘密結社や強欲な権力者との手に汗握る攻防を繰り広げます。か弱く書物に夢中で修道士のミシェルと、たくましく世事に長けている吟遊詩人マティウス、独立心旺盛な少女ルシアという3人の絶妙なバランス、歴史ファンタジーや冒険物語としての面白さなどはもちろんですが、非常に魅力に感じたのは、懐の深さ、柔軟性のようなものです。

 中世ヨーロッパが舞台、しかもキリスト教が大前提の物語では、宗教観になじみがない日本人としては今ひとつ入り込めないことが、ままあります。しかしこの作品の、宗教者と吟遊詩人と魔女の血を引く娘、という組み合せは、それ自体相容れないもの。欧米人にとっても「他者」どうしが、共鳴しあい、受け入れていくという過程は、異文化圏の人々にも受入れられやすいのではないでしょうか。また、男女格差、マイノリティー、貧困など、現代にも通じる問題が盛り込まれ、時代も舞台も違うのに身近に感じられます。

 本作も、先に翻訳された『漂泊の王の伝説』もスペインの児童文学賞「バルコ・デ・バポール児童文学賞」受賞ということで、日本でも“名作児童文学”的な扱いなのか、ハードカバーA5版の児童書サイズで、格調高い表紙になっているのが、少し残念。手に取るハードルも高そうですよね。主人公含めキャラクターが秀逸で、せめて表紙でイラスト化したらいいのに、と思いました。マティウスの連れているオオカミ犬シリウス含め、主人公たちの姿は、ライトノベル好きな日本の若者にも受けそうな印象です。

(神谷巻尾)

『この世のおわり』

ラウラ・ガジェゴ・ガルシア作 松下直弘訳(偕成社)2010年10月

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2011年

1月

19日

一億百万光年先に住むウサギ

 新年最初のレビューです。今年は卯年、ということで「ウサギ」が出てくる小説にしてみました。昨年残念なことになってしまった理論社の、YA単行本です。

 

 主人公は中学3年生の翔太。親の事情で移り住んだ湘南の地で、友人や回りの大人たちとのさまざまな交流や恋愛をとおして、成長してゆく青春小説です。冒頭、恋が実る伝説や洋館に住む老教授などロマンチックな設定で始まります。不思議なウサギが登場したりして、これはSF? と思うと、友人が巻き込まれた盗難騒動の犯人探しといったミステリーもあり、後半は失踪事件もからむラブストーリーになり、となかなか盛りだくさんです。

 とはいえそんな慌ただしさはなく、むしろゆったり時間が流れていて、少し前の時代の話?と思わせるような雰囲気です。横浜、鎌倉、江の電沿線など湘南特有の地域感がただよい、親世代からの付き合いや古くからの顔なじみ、ジャズが流れる喫茶店など、作者が気持ちよく書いているような印象を受けます。

 タイトルの「一億百万光年先に住むウサギ」は、親世代が高校生だった時に作ったという童話作品。この逸話が全編を通して顔を出しています。宇宙から来たウサギが、恋をかなえるために星を磨く、というなかなかかわいらしいお話なのですが、なんとこの話がスピンアウトして絵本になっていました。

 これも合わせて読んでみたいですね。

(神谷巻尾)

『一億百万光年先に住むウサギ』

那須田 淳 (理論社  2006年)

 

『星磨きウサギ』

那須田淳/著   吉田稔美/絵 (理論社 2007年)

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2010年

12月

27日

【特集:今年のベスト本】『希望(ホープ)のいる町』

  今年いちばんを選ぶために、年末かけこみで気になっていた児童書/YAを読みあさった、という本末転倒ぶりでしたが、はからずも号泣してしまったのがこちらでした。作品社の新しいシリーズ、金原瑞人選「オールタイムベストYA」の1冊です。

 

 「ホープ」は高校生の女の子。産んですぐ姉に預けて出て行ってしまった母親がつけた名前を捨て、自分で付けた名前です。名コックのおばと一緒にウエイトレスとして働き全米各地を転々とするホープがたどり着いた店のオーナーは、町の汚職事件を追及するために病気を持ちながら町長選に立候補することに。

 複雑な生い立ち、選挙活動、不正や犯罪など、高校生にとっては過酷といえる環境を背景にしているのですが、決して悲劇にも、感動を誘う材料にもしていません。レストランが舞台だけに、料理や、厨房、給仕の仕事が生き生きと描かれていて、「希望」を感じさせます。働きながら、新しい環境にも小さな町にも溶け込んで暮らすホープに惹かれ、すっかり感情移入していました。子どもの頃、海外児童文学を読んだ時に感じたのは、こんな新鮮な驚きだったかも、と思い出しました。

 今の日本の中高生が共感するのはリアルな日常を描いた作品が主流でしょうが、不幸や病気がテーマでも、こんな味わいの作品もあるというのを知ってもらえれば、と思いました。

(神谷巻尾)

 

『希望(ホープ)のいる町』

ジョーン・バウアー作 中田香・訳(作品社)2010年3月

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2010年

12月

13日

きのうの夜、おとうさんがおそく帰った、そのわけは・・・・・・

 今年度、第48回野間児童文芸賞受賞作品です。

 夜なかなか帰ってこないおとうさんは、いったいどこでなにをしているんだろう。息子「あっくん」の疑問に、おとうさんがそのわけを説明する、という短編集です。

 

 野間児童文芸賞といえば、児童文学賞のなかでもっとも権威があるといわれています。過去には、松谷みよ子「小さいモモちゃん」(2回)、斎藤惇夫「ガンバとカワウソの冒険」(18回)、角野栄子「魔女の宅急便」(23回)など児童書の名作のほか、あさのあつこ 「バッテリー」(35回)、たつみや章「月神の統べる森で」(37回)、椰月美智子「しずかな日々」(45回)などYA世代向け作品への授賞も多く、幅広い児童書から選んでいます。

 「きのうの夜、」は小学校低学年向けですが、なかなか味わい深く、児童文学賞の受賞もなるほど、という印象の良書でした。

 各短編は、おとうさんが寝る前のあっくんに、きのう遅くなったわけを語りかける、というスタイルですすみます。あるときは帰り道にモグラやみみずに出会って地下深くまで穴掘りをし、あるときはくまがとばした帽子をとるために木登りをして、とおとうさんは動物たちに頼まれてさまざまな冒険をします。

 その冒険は、世界の危機を救い、家族や人々のくらしを守るために必要なことがわかり、一生懸命がんばるおとうさん。野球、木登り、ボート漕ぎなどで大活躍したお父さんは、こんどはあっくんと一緒にやろう、と話します。

 おそく帰った言い訳だったはずが、お父さんががんばる寓話になり、最後は子どもへの思いを伝えるという流れは、もしかしたら子どもよりお父さんがぐっと来そうです。「イクメン」が話題になるこの頃、お父さんが読み聞かせするにはぴったりの作品ではないでしょうか。働くお母さんに絶大な支持を誇る酒井駒子「よるくま」と、少しちかいものを感じました。

(神谷巻尾)

 

「きのうの夜、おとうさんがおそく帰った、そのわけは・・・・・・」

作/市川宣子 絵/はたこうしろう  ひさかたチャイルド 2010年4月

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2010年

10月

11日

アナザー修学旅行

 第50回講談社児童文学新人賞受賞作品です。授賞は昨年ですが、今年6月に単行本として刊行されています。

 

 中学生活最大のイベント修学旅行に、さまざまな事情で参加できなかった6人が、学校に残って同じ教室で過ごす3日間の話です。そうか、宿泊行事を休むと学校に通うのか。人生でたった一度の修学旅行に行けず、見慣れないメンバーで教室にいるという状況、すごい萎えるだろうなあ。と、いやおうなしにお話にひきこまれる、絶妙な設定ですね。

 物語は、足の骨折で不参加になった佐和子の視点で進みます。

 佐和子は友達も多く、周りとの関係を何より気にかける、ごくフツーの今どきの中学生。だから、知らない子たちと一つの教室にいて、誰よりも気まずく、席の位置や、他人の会話にやけに敏感です。自分がどう見られてるかも気になってトイレで長々鏡を見てしまうとか、まだ友だちじゃないから下の名前で呼べない、とか、細かいところがいちいちリアル。これは同世代の子が読んだら楽しいでしょうね。「もう、ぞくぞくするくらい中学生なわけ。話すことも、話す言葉も、話し方も、考え方も、行動も……ぜんぶ!」と、金原瑞人氏も絶賛だそうです。

 留守番になったのにはそれぞれ理由があり、その事情と絡みながら6人(実は途中からもう1人増えます!)は少しずつ打ち解けていきます。人の少ない学校で、イタズラしたり、賭けをしたり、大胆なことしてみたり、いつもと違うことをしてはじけていく様子がさわやかです。

 登場人物が、不良(だけど秀才)、美少女、芸能人、あるいは恵まれない境遇にいる、など,揃い過ぎという気もしますが、フツーの子の視線で語られているので、意外とすんなり入り込めます。

 突出したことより、普通がすごく楽しいのが、中学時代なんだな、と思い出しました。

(神谷巻尾)

『アナザー修学旅行』

有沢佳映著 講談社 2010年6月

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2010年

9月

27日

「つづきの図書館」

 今年度、第59回小学館児童出版文化賞受賞作品です。

 故郷に戻り、図書館分室に司書として勤めることになった40代バツイチの桃さん。そこにあらわれたのは「読んでくれた人のつづきが知りたい!」と、絵本の中から出てきたはだかの王様や、狼。彼らと一緒に人探しをしながら、自分自身の思い出もよみがえってくる。そんなファンタジーです。

 

 次々に絵本の登場人物が出てきて、それぞれの謎をとく、というミステリー仕立ての連作短編集のおもむきですが、最初「青い鳥文庫」のサイトで連載していたからでしょう。web連載発というものもあって当然な時代でしょうが、小学生はネットで小説を読むのか、というとどうなのでしょうか。

 

 書籍には書き下ろしも加わり、各話にちりばめられた仕掛けが結びつき、桃さんの物語としての結末を迎え、長編としての充実した読後感を味わえました。

 

 作者の柏葉幸子さんは、『霧のむこうのふしぎな町』が著名な、主要な児童文学賞総なめの、児童書ファンタジーの大御所作家、という印象があります。ちょっと変わり者ぞろいの登場人物、自然なファンタジー要素、物語のわくわく感などとても児童書らしく、「絵本の次に読む本」として子どもが入りやすい本なのでは、という気がします。変に教訓じみたり、感動的になりすぎたりしないところも好感が持てます。

 さて、賞のほうもちょっと調べてみました。小学館児童出版文化賞は、1952年に「小学館文学賞」「小学館絵画賞」として創設、1996年に統合して改称されました。

 

 選考対象は、1年間に発表された絵本、童話・文学、その他(ノンフィクション、図鑑など)と幅広く、過去の受賞作も、伊藤たかみ『ミカ!』(49回)、森絵都『DIVE!』(52回)、長谷川義史『ぼくがラーメンたべてるとき』(57回)、松岡達英『野遊びを楽しむ里山百年図鑑』(58回)など、さまざまなジャンルの作品が並んでいます。

 

 今回W授賞となった『ぶた にく』も豚が肉になるまでを追った、ノンフィクション写真絵本です。 賞のサイトには候補作が並んでいましたが、この1年の児童書関連の話題作、注目のテーマ一覧、といった様相でおもしろかったので掲載してみました。

 賞のサイトには候補作が並んでいましたが、この1年の児童書関連の話題作、注目のテーマ一覧、といった様相でおもしろかったので掲載してみました。

 

第59回小学館児童出版文化賞候補作

アンナの土星』益田ミリ(メディアファクトリー)

犬たちをおくる日―この命、灰になるために生まれてきたんじゃない』今西乃子(金の星社)

おいで、フクマル』くどうなおこ:作/ほてはまたかし:絵(小峰書店)

くさをはむ』おくはらゆめ(講談社)

小学館の図鑑NEO+くらべる図鑑』小学館

すみ鬼にげた』岩城範枝(福音館書店)

つづきの図書館』柏葉幸子(講談社)

ぶた にく』大西暢夫(幻冬舎エデュケーション)

雪だるまの雪子ちゃん』江國香織(偕成社)

 このなかでは『くらべる図鑑』が圧倒的に子どもに人気だったと思いますが、これには授賞しないんですね。「児童出版文化の向上に貢献」という賞の趣旨からすると、売上的には大変な貢献かと思いますが、文化、という点だとやはり教育的な面が重視される、ということでしょうか。 

(神谷巻尾)

『つづきの図書館』

柏葉幸子作 山本容子絵 講談社  2010年

 

 

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2010年

8月

27日

今年で終了、赤い鳥3賞

 児童書の文学賞ってどんなのがあるの? どこから、どんな作家が出てきているんだろう、と常々気になっていたので、ここで少しずつ調べていこうと思います。

 

 始めたところで、いきなり終わる話になりますが、児童書の代表的な文学賞、「赤い鳥3賞」が今年で終了、とのこと。鈴木三重吉が始めた児童雑誌「赤い鳥」をルーツに誕生した「赤い鳥文学賞」は40回、「赤い鳥さし絵賞」が24回、「ごんぎつね」で著名な新美南吉にちなんだ「新美南吉児童文学賞」は28回で、その幕を閉じました。

 「赤い鳥文学賞」第1回受賞作は、椋鳩十「マヤの一生」、松谷みよ子「モモちゃんとアカネ」。1971年のことですが、今となっては大御所へのダブル授賞で、当時の児童文学の隆盛ぶりが感じられます。その後も、第4回舟崎克彦「ぽっぺん先生と帰らずの沼」、第8回宮川ひろ「夜のかげぼうし」、第13回いぬいとみこ「山んば見習いのむすめ、第18回岡田淳「扉のむこうの物語」、第27回萩原規子「薄紅天女」など、錚々たる作家が授賞しています。ただ2000年代以降の受賞作家に、少しなじみが薄いような気がしますが…

 一方、新美南吉児童文学賞は、1983年から始まり第1回は、北川幸比古「むずかしい本」、佐野洋子「わたしが妹だったとき」の2作授賞第8回石井睦美「五月のはじめ、日曜日の朝」、第13回梨木香歩「西の魔女が死んだ」、第15回富安陽子「小さなスズナ姫」、第18回花形みつる「サイテーなあいつ」、22回小森香折「ニコルの塔」など、今の主流の書き手を輩出してきた、という印象があります。

 最後の授賞となったのは、赤い鳥文学賞が岩崎京子「建具職人の千太郎」、新美南吉賞が三輪裕子「優しい音」でした。「建具職人〜」は、江戸時代を舞台に、建具屋に奉公に出された少年が職人をめざす成長物語。この夏の課題図書にもなっていましたね。

 「優しい音」は、機会があって読んでみました。ちょっとしたきっかけで仲間はずれにされた女子中学生が、顔のわからない相手とのメールに励まされて勇気をもらい、積極的になっていく、という、タイトルどおり、優しいお話でした。

 課題図書と、優しいお話。確かに授賞に値する作品なのでしょうが、読み手側の子どもに、今どう伝わっているのか。それは賞の終了とも関わっているのでは、と思ってしまうのでした。

(神谷巻尾)

 

 

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2010年

8月

16日

園芸少年

 今年度、第50回日本児童文学者協会賞受賞作品です。

 高校に入学したばかりの男子3人が、成り行きで廃部寸前の園芸部に入り、花壇の世話をしながら成長してゆく、という部活小説です。

 

 主人公の3人、学校に期待せずそつなく過ごそうとする篠崎、不良あがりの大和田、保健室登校の庄司は、それぞれ全く違うバックグランドを持っています。それが園芸を通してお互い理解しあい、前向きになっていく姿はさわやかで、素直に好感が持てます。

 部活を通して成長する、いわゆる部活小説/漫画は最近大変多いですよね。人間関係や競技の描写など、魅力的なテーマがたくさんあるし、マイナースポーツや文化部などこれまで注目されてこなかった部活作品もたくさん出てきて、面白いものが多いと思います。

 

 特にマイナー部活ものは、マイナーならではの、青春!熱血!ではない、淡々とした日常やごくふつうの中高生の姿が感じられる作品が多いような気がします。 

 この作品も、園芸という地道で静かな活動が舞台だし、主人公たちは周りから浮いてたり、目立たない子たち。学校の中心にはなりえない場所、子どもが、土をおこし、種をまき、水やりをする、という一連の流れととも彼らの日々の小さな変化も、自然と見えてきて、共感できます。

 いじめ、友人関係の悩みなど、思春期ならではテーマもあるけれど、深刻になったり妙に盛り上げたりしないところもいいです。

 夏休みに合宿だ、とはりきって出かけたものの、目的地の公園がしまっていたり、キャンプに飽きて24時間営業の食堂で一夜を過ごす、という展開、むしろ青春!とニヤリとしました。

 

 今見たら、昨年8月刊行の本なんですね。確かに高校1年の夏に読むと、ちょっと元気がでそうな本かもしれません。

(神谷巻尾)

『園芸少年』

魚住直子(講談社) 2009年8月

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2010年

6月

18日

ユリエルとグレン

児童書ってどんな文学賞があるの?と前々から気になっていたので、ここでは文学賞受賞作品を読んでいこうと思います。

 

ということで「ユリエルとグレン」、今年度の児童文学者協会新人賞受賞作品です。

予備知識なしに図書館で取り寄せてみたところ、表紙を見てびっくり。ハードカバー児童書なのに、なんという萌えイラスト。しかもやけに完成度が高いのでは、と思ったら装画は「黒魔女さんが通る!!」シリーズの藤田香さんでした。この作品は、2008年に講談社児童文学新人賞佳作を受賞した作品。著者石川宏千花さんへの、講談社の期待度が伺えるといえましょう。

さて作品の方は、表紙イメージや副題の「闇に噛まれた兄弟」が示すとおり、ヴァンパイアに襲われた美少年の兄弟の物語です。

兄のグレンと弟のユリエル、それぞれの「血」に秘密があり、謎を解く旅の途中で様々な事件に遭遇、困難に立ち向かいながら成長して行きます。

あまりに美しい兄弟愛にうっとりするお姉さん読者も多そうですが、ローティーンの女の子も惹き付けられそうな要素がいろいろあります。

生きるために兄弟の結びつきが必要、ということがすんなり受入れられる設定だし、吸血鬼や狼男など異生物を扱う聖職者のトリストラムとテレンス、ヴァンパイアハンターを探しているエヴァンジェリンとアンジェラという少女など、主要人物がペアというのも、子どもに受けそうですね。

 

児童書のヴァンパイアものといえば「ダレンシャン」が人気ですが、こちらは友情と冒険テーマで男の子に支持されているもよう。兄弟、家族、血族、ちょっぴり恋愛風味もある「ユリエルとグレン」は、女の子が好きそう。

1巻は人物造形や表現など若干気になる部分もありましたが、2,3巻と進むにつれぐっと面白くなっていくとか。追って行きたいシリーズです。

                                   (神谷巻尾)

 

『ユリエルとグレン』

石川宏千花 講談社

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2010年

5月

18日

精霊の守り人

 こんにちは。管理人の巻尾です。まず1冊というのが予想以上に難しく、悩みましたが思い切って選びました。

  『精霊の守り人』に始まる「守り人」シリーズは、異世界を舞台に、精霊の卵を産みつけられた皇子チャグムと、彼を守る短槍使いの女用心棒バルサを軸に、壮大なスケールで描かれた物語。日本を代表するファンタジーと称され、数々の児童文学賞を受賞しています。1996年に偕成社から児童書として刊行され、こちらは全10巻がすでに完結。2007年にNHK BS2でアニメ化、同年に新潮文庫になり、現在中盤の5,6巻まで刊行と、児童書の枠を超えて人気が再燃といった感があります。

 

 「守り人」の最大の魅力は、なんといっても主人公の女用心棒、バルサです。

 まず驚いたのが、バルサの描写。「顔にすでに小じわが見える」30歳のヒロインなのですよ。シリーズが進むにつれ、最後は確か37歳。独身のアラフォーです。普通ファンタジーで、強い女性が主人公なら、若くて(というか少女)美人(というよりかわいい)、がお約束かと思いますが、それを軽く裏切ってあまりあるバルサの活躍には、子ども以上にきっと大人の読者も引き込まれるでしょう。

 

 幼なじみの薬草師タンダは、傷を負ったバルサを献身的に介抱し、料理も上手な、年下男子。タンダの師匠、呪術師トロガイは70歳のスーパーお婆ちゃん、と、ステレオタイプではない登場人物たちが、とてもいい。文庫最新刊『神の守り人』にも、数奇な運命を背負う兄弟、信頼の厚い王、不穏な動きをする王の使いなど、人物造形がはっきりして魅力的な人々が物語の中で自然に立ち動いている印象です。

 

 それからもうひとつ、登場するものの名称や、ディテールが凝っているのも面白いところ。地名や民族、国ごとの言語、動植物や食べ物の名前など、詳しく記され、使い分けられています。特に料理の名前とその描写はすばらしく、「あつあつのバム(無発酵のパン)に、たっぷりのラ(バター)」とか、「ジャイという辛い実の粉とナライという果実の甘い果肉をつけこんだ鳥肉」を飯にまぶした「ノギ屋の鳥飯」など、印象的な食事シーンがたくさんあるのです。

 

 そんな守り人メシファンに向けてか、上橋作品に出てくる料理を再現した本『タンダの食卓』も昨年刊行されました。上橋さんの児童書体験や、作品中の料理についてのエッセイも収録されており、児童書読み心をくすぐる内容です。


 食べ物も人物も、国も時代も、ファンタジーながら設定がしっかりしていて詳細な部分にぬかりはなく、どことも限定されていない場所に連れて行ってくれる、という児童書を読んだ感いっぱいになれる本です。

(神谷巻尾)   

 

「精霊の守り人シリーズ」上橋菜穂子著

偕成社ワンダーランド新潮文庫


 

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