児童書レビュー

2013年

4月

23日

湯本 香樹実「夏の庭―The Friends 」

子ども~10代向けの本のレビューサイトの書評であるのに、今までは単に最近自分が読んだ本の紹介でしかなかったことに気付いたので、たまには自分が中学生の頃読んだ本を紹介したいと思います。

「夏の庭」は小学6年生の『ぼく』・山下・河辺の3人の少年と1人のおじいさんの交流を描いた物語です。山下が祖母の葬儀に出たことをきっかけに「人が死ぬ瞬間を見てみたい」と思った3人の少年は、町内で一人暮らしをしている今にも死にそうなおじいさんの家を「観察」しはじめます。しかしなかなか死なないおじいさん。やがて「観察」のことはおじいさんにばれ、3人は最初に怒られこそすれど、いつしか少年たちの一方的な「観察」は次第におじいさんと少年たち双方の交流へと変わっていくのでした。

この物語のテーマはずばり「死とは何か」です。しかしその問いに対する明確な答えが作中で示されているわけではありません。むしろ死とは何かが定義づけされないからこそ、少年たちの視点を通して読者たる私たちそれぞれが死とは何かについて個別の解釈を導き出すことができるのです。その点で物語のテーマは「死とは何か」というよりも「死とは何かについて考えること」と言ったほうが正確かもしれません。
先述のあらすじを踏まえれば最終的に少年たちとおじいさんに死別の時が来ることはある程度想像できるでしょう。確かに、おじいさんは最終的に亡くなってしまいますが、だからといって「おじいさんと男の子たちが絆を深めて死んで別れて感動ね」というだけで終わらないのがこの作品のいい点です。というより、それだけで終わってほしくないという私の願望かもしれませんが。中学生や高校生になると文字数が多くてちょっと難しい本を読むことにも次第に慣れてくると思います。そうなると結末ばかりを気にして、本を読むことで自分の考察を深めるということがおろそかになりがちです。

『死ぬということは息をしなくなることだと思っていたけれど、それは違う。生きているのは、息をしているってことだけじゃない。それは絶対に違うはずだ』
作中の「ぼく」の言葉です。最初は単に人が死ぬ瞬間を見たいという好奇心だけであった少年が、物語を通して少しずつ死ぬこと、そして生きることに対して考えを深めていくこのシーンが印象的です。中高生というのは、大人よりも固定概念にとらわれない柔軟な発想のできる時期だと思います。だからこそ、この「ぼく」の視点を通して死ぬとは何か、逆に生きるとは何か、という点について考え、『考察しながら読み進める』読書を身に着けるきっかけにしてほしいと思います。
そういう点で中高生のみなさんに読んでほしい本です。

『夏の庭-The Friends』
湯本香樹実

新潮社 1994年3月

0 コメント

2013年

2月

13日

ルイス・サッカー「 HOLES」

 全米図書賞、ニューベリー賞など多くの賞を取った作品です。映画にもなっており、amazon等にもすでにレビューが沢山あるので今更私が紹介するまでもないかもしれませんが、それでも勧めたい一作です。私がこの本を読んだのは大学の授業の折でしたが、この本はすごい、と思いました。何がすごいかって、これだけよくできた話がアメリカでは9~12歳向けの児童書として売られているそうだというからです。

 

 主人公は上から読んでも下から読んでも同じ名前のStanley Yelnatsという少年です。Yelnats家は曾曾祖父の時代から代々呪われた一家で、Stanleyも学校でいじめられる毎日。ある日彼は犯しても ない罪で荒野の果ての少年更生施設に送られます。土地がからっからに乾いた灼熱の地でのStanley達少年の仕事は毎日1つ、大きく深い穴を掘ること。 施設の女所長のもと彼らはひたすら穴を掘り続けますが、ある時Stanleyは彼女が何かの目的をもって自分たちに穴を掘らせているらしいということに気 づくのです。

さらに話の軸はStanleyの他に、呪いの大元である一代目Stanley Yelnatsや、100年前のまだ湖が湧き緑豊かで人が住んでいたCamp Green Lakeの地へと移ります。小分けにされたチャプターごとにこの3つの物語が交互に進んでいき、何故Yelnats家が呪われることとなったのか、女所長が穴を掘らせる真の目的は何かが徐々に暴かれながら、ラストへ向けて話が一つに集約されていきます。

とにかく伏線回収がすごい。ラストに向かうにつれて「ああ、あれはそういうことだったのか」という驚きやひらめきが次々に起こり読者を楽しませてくれます。またもう一つの見どころはStanleyの成長です。呪われているということもありますが最初は太っちょで勉強もさえず根暗だった彼が、施設で出会った他の少年たちとの出会いを通して友情を知り、心身ともにたくましくなっていく姿に注目です。物語はどんでん返しののち大団円に終わり、ちょっとできすぎじゃない?とも思えるほどですが児童書としては陳腐さはまったくなく、すっきりとした気持ちで読み終えられます。洋書初心者にも最適の一冊です。

続きを読む 0 コメント

2013年

1月

20日

星新一「おーいでてこーい」

今回紹介するのは星新一のショートショート集「おーいでてこーい」です。この作品を知らない人でも星新一については知っている、もしくは著者の他の作品を読んだことのある人もいるかもしれません。星新一は日本を代表するSF作家であり、日本でのSF小説発展に大きく貢献した人物で、ショートショートと呼ばれる十ページほどの短い小説の形態を生み出し、書いたショートショートの数は1042編にも上ります。本書「おーいでてこーい」には多くのショートショートから人気投票で選ばれた上位五編を含んだ十四編のショートショートが収録されています。

 

前回、前々回と紹介してきた本は二冊とも長編の小説でした。このホームページを見ている人の中には長い文章を読むのが苦手だという人もいたかもしれません。今回は紹介する「おーいでてこーい」は、普段小説を読むことのない人や長編小説を途中まで読んでも疲れて読むのをやめてしまうような人にピッタリの一冊です。ショートショートの魅力はその短さによるテンポの良さと、あっと驚くようなオチが用意されていることであり、さらに星新一の描くショートショートは専門である宇宙や近未来を舞台としたSFから昔話を意識した寓話めいたものまで幅広いのが特徴です。

 

本書収録の十四編から、表題作である「おーいでてこーい」を例として紹介します。これはある村に突然穴が出現するという話です。その穴は深く、「おーいでてこーい」等と大声を出しても跳ね返ってこず、石を投げてみても何の反応もない。人々はその穴をどうするか考えた結果、都会で出たごみを捨てるのに利用し始めるがある時空から「おーいでてこーい」と声がして石ころが一つ降ってくる……。作品はここで終わってしまいますが、その穴は未来とつながっていてこれから大量のごみが空から降ってくるというのが想像できるというわけです。この作品はたったの八ページしかなく、五分もあれば読むことができるので長い文章を読みたくない人でも飽きずに読むことができると思います。他の十三編の内容については落ちの全てをばらしかねないので控えますが、どの話も短くユーモア(時にはブラックな)にあふれた作品です。

 

続きを読む 0 コメント

2013年

1月

09日

松田青子「はじまりのはじまりのはじまりのおわり」

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくおねがいします。

新年最初は明るいものを、と思ったけれど年末年始わりとヘビーなものが続き選びあぐねていましたが、年明けに届いてもうこれ以外にない!と即決したのがこの作品です。
本の好きなカタツムリのエイヴォンが、自分も本の中のような冒険がしたい、とアリのエドワードとともに「冒険を探すための冒険」の旅に出て、色々なできごとに出会い、さまざまな発見をして...という言ってみればありがちなストーリーなのですが、これが不思議なおもしろさなのです。

たとえば、エイヴォンが話すこんな一節。

「世界で一番たいせつなことは冒険なのに、今までぼくは冒険できなかったし、これからもそう。そう、きっとそうなんです。本に出てくるみたいな冒険ができないんだったら、ぼくは死ぬまで不幸なカタツムリのままだ。うわー、どうしよう!」

何だこいつは、と笑いつつ、もうエイヴォンの虜です。
アリのエドワードはですます調のすました話し方で、コンビのバランスも絶妙のバディ小説としても読めます。モノクロの挿絵といい、かつて読んだ絵本、児童書が蘇ってくるようでした。私は「クマのプーさん」(岩波文庫版)と、「スターウォーズ」のC3POとR2−D2を思い描いていましたね。

実はこの本、訳者に惹かれて注文したのでした。
翻訳の松田青子さんは今月初の単行本が出るという新人作家ですが、文芸誌「早稲田文学」に掲載していた小説が衝撃的で、気になって検索していたら出て来たのが、この本だったのです。

児童書?翻訳?と謎が多かったのですが、読んでみて大正解でした。
小説の方は、社会で働くことの難しさ、生きにくさなどを鋭い表現で描くような作品でしたが、
この「はじまりのはじまりの」は、全く違い、かわいらしくやさしく、でも深いものが感じられるいいお話でした。
先月「飛ぶ教室」新訳版の紹介もありましたが、訳者によって本を選んでみると、意外といい作品が発見できるかもしれませんね。

続きを読む 0 コメント

2012年

12月

10日

角川つばさ文庫版『新訳 飛ぶ教室』

 

 

不朽の名作がこんな表紙絵ですよ! 


名作文学の新装版が出た場合、図書室にすでに入っている作品であってもできるだけ購入するようにしています。理由は、内容はいいのに古いと言うだけでなかなか手に取ってもらえないからです。もちろん、外見に惑わされず読む子もいますが、ちょっとでも興味を持ってもらうためには手を出してもらいやすい見た目を選ぶのも大事ですね。出会いの手段です。

中身は間違いなく面白いんですから。

 


しかも、訳が那須田淳さん。那須田さんの書いた児童書も好きなので、期待して購入しました。


でも、こうしてレビューを書いてる今、まだ私は読めていません。陳列するなり、借りられていき・・・返されたと思ったら次の子が借りていき・・・という繰り返しで書架で休んでいる暇もない有様です。


私はいつになったら読めるのかしら・・・。

 

内容についてのことも書かねば。

 

ドイツの寄宿学校を舞台にした、少年たちの友情と先生たちとの心温まるやりとりなど・・・今の時期に読むとより楽しめる作品だと思います。

(ニャン左衛門)

 

続きを読む 0 コメント

2012年

12月

04日

中沢けい『楽隊のうさぎ』

 

 学校にいる時間をなるべく短くしたいと考えていた引っ込み思案の中学生奥田克久。中学校に入った直後、勧誘を受けたがきっかけでなぜか吹奏楽部に入部することになる。今まで体験したことのない音楽の世界で戸惑いながらも、しだいに音楽の面白さに気づき、夢中になっていく。そして、同時に少年から大人の階段を上り始めるのであった。

 

 この「楽隊のうさぎ」の大筋は主人公克久が部活動を通じて成長していくという単純かつ明快なものですが、音楽について何も知らない克久が演奏する楽しさを覚えて夢中になっていく過程を描きながら、同時に日々成長していく主人公とそれをもどかしく見守る親との関係も書いています。

 この本の大きなキーワードとなるのは「部活動」と「親子」です。

まず、「部活動」についてですが、皆さんは今部活動をしていますか。私は学生時代に剣道部に所属していましたが、部活動というのは平凡なようで、実は非日常的要素を多く含んだものだと思います。実際に今部活動をしている人にとっては、日常生活に自然に部活動が組み込まれているわけで、特別なことをしているということを自覚しにくいものですが、例えば吹奏楽部のことは実際に吹奏楽部にいないと分からないし剣道部のことは剣道部にしかわかりません。私自身は吹奏楽のことなど全く知らずにこの本を読んだので吹奏楽部がまるで別世界のことのように感じましたが、剣道部に入ったことのない人(おそらくほとんどの人がそうだと思いますが)にとっての剣道部もそんなふうに感じるのではないかと思います。「顧問の先生は機嫌が悪いとこういう癖が出る」とか「この練習がきつい」、「○○高校の顧問はこんな人だ」などといった部分は部内の人にとっては当たり前に通じることでも部外の人間にとっては当たり前ではないのです。つまり、「部活動」という場は同じ価値観を共有しあう、ある意味それが自体が日常から隔離されたところに存在する独特の雰囲気に包まれた空間ではないかと私は考えます。この本の中では「部活動」という独特の空間がうまく描写されており、大きな魅力の一つになっています。

 

続きを読む 0 コメント

2012年

11月

25日

岩貞るみこ『青い鳥文庫ができるまで』

大人気児童文庫シリーズ「青い鳥文庫」の、原稿から本になるまでの一連の流れが描かれた小説です。


著者はノンフィクション作品を中心に手がける作家ですが、自分の本を出すときに東日本大震災がおこり東北の製紙工場が被災、印刷用紙が足りない、という事態に直面したことがきっかけで、この作品を書いたとのこと。出版社が必死に用紙を手配し、印刷や製本所がぎりぎりの状態で本を作り、販売部宣伝部が調整し、最終的に書店を経て読者の元に届けられたということから、「こうした人がいて初めて、本が読者のみんなに読んでもらえるのだと痛感」して、4ヶ月の取材を経てこの本になったといいます。

 

累計200万部突破目前の人気シリーズ「白浜夢一座がいく!」を担当する編集者モモタが作家綾小路さくら先生に新作の原稿を依頼するところから始まり、校閲、イラストやデザイン手配、営業や販売担当との交渉、校正、印刷、流通、などが順を追って登場します。仕事の内容、手順などの記述は、専門用語も多用され、かなりリアル。カバーの囲う方法とか、本の平台印刷の「折り」の作り方とか、普通知らないでしょ!とか思いますが、こういう業界内部の話って意外と面白いですよね。今年本屋大賞を受賞した『舟を編む』は辞書編集の話でしたが、こちらはもっと広範囲に出版全体を網羅しています。出版業界や本に興味のある人にも、勉強になりそうです。

実際の工程も楽しめるのですが、小説として書かれているので、主人公モモタを中心にさまざまな人との関係や事件、トラブルなども出てきます。校閲担当の教授、お金の計算を担当するマダム、本のデザインをするビッグマザーなどわかりやすいキャラクターだったり、早いテンポで話が展開していくのは、青い鳥文庫読者にも読みやすそう。後半、校了(最終的な締切)間際に、ストーリーの決定的なまちがいを見つけて顔面蒼白になるというシーンで、小説の詳細が書かれていないので、まちがいの重大さがピンと来ない、というところは少し残念ではありましたが。

続きを読む 0 コメント

2012年

8月

14日

シャインロード

地方都市に住む女子高校生の就職活動がテーマの物語です。

シャインロードって、輝くシャインと、もしや社員をかけている?と思ったら、裏表紙に「Shine」「Shain」と書かれていました。わかりやすいです。


お話も、わかりやすく進んでいきます。北海道小樽に住む女子高校3年生三冬は、数少ない就職組。進学組に引け目を感じ、学校までの道も、みんなが通るメインの花坂ではなく、勾配がきつく暗い氷坂を通る。看護士の母親とふたり暮らしで、家のためにも早く就職を決めたいのに、何度も何度も落とされて、落ち込んでいく。。。

 

大学新卒の就活の厳しさはよく聞きますが、高校生の就職のようすはあまり目にしたことがなかったのですが、応募や結果の通知はすべて学校を通してするなど、初めて知りました。

担任の若い教師を円ちゃんと呼び、就職志望といっても特に何か努力するでもなく、「なんで私を採らないかな」なんて根拠のない自信を持っていたり、というあたり、今の子をよく表しているのかな、とも思います。

そんな三冬は、通りかかった小さな印刷所で校正のアルバイトを始めます。校正は、中学時代にクラスメートの男子から生徒会誌で頼まれたことがあり、自信があったから。やがてその印刷所に、当時校正を頼んだ男子、山川君が自費出版の原稿を持ち込んで偶然の再会。その後バイトを通じて地域や大人の社会を垣間みて、就職活動でも校正に関する会社を見つけ、山川君ともいいかんじになり、とすべてがうまく回り始めます。

続きを読む 14 コメント

2012年

4月

23日

クレヨン王国の十二か月

大晦日の夜、ユカは部屋の片隅から聞こえる話声で目を覚ましました。十二色のクレヨン大臣たちが、クレヨン王国のゴールデン国王の失踪について会議を行っていたのです。

 

ゴールデン国王は、お妃であるシルバー王妃の抱える数々の欠点に呆れ返り、姿を消してしまっていました。ユカはシルバー王妃のために、十二のクレヨンの町をゴールデン国王を探しに旅立つことにしました。

 

 

シルバー王妃は、それぞれの町で散らかし癖・偏食・自慢屋という数々の自身の欠点と向き合っていくのでした。十二ヶ月に渡る旅を通じ、お妃にふさわしい品格を備えることが出来たシルバー王妃は、再会したゴールデン国王の心を取り戻すことが出来たのでした。

続きを読む 0 コメント

2012年

4月

10日

ピース・ヴィレッジ

 

震災以降、何かしらその影響がある作品が多数発表されていますが、児童書ではどうなんだろう、と思っていました。この作品は直接触れられている分けれはないものの、社会的に複雑な環境の中で成長していく姿が、子どもの目線で描かれている、と感じました。

主人公は、米軍基地のある町に住む小学6年生の楓。アメリカ人兵士やインド人の店員など外国人がまわりにたくさんいて、お父さんが経営するスナックも米軍相手の店。お母さんの妹は料理家らしいけれど、ふらっとどこかへ出て行って帰ってきません。親友紀理ちゃんのお父さんは活動家で、一人反戦のビラを撒いていて、入院したお父さんの代わりに、中1の紀理ちゃんもビラ配りをするといいます。

 

楓はテレビの戦争の場面が怖くて夢にまで出てきて、いつ起こるかと思うと不安で仕方がないのですが、お母さんには「起きやしないって」といなされます。

続きを読む 0 コメント

2012年

3月

12日

鉄のしぶきがはねる

第27回坪田譲治文学賞受賞作品です。

 

前回の受賞作、佐川光晴『おれのおばさん』は児童養護施設が舞台でしたが、今回は工業高に通う、学科唯一の女子高校生が主役です。

 

なじみのない世界の作品は、それだけで新鮮で珍しいものを読む楽しみもありますが、そういえば子ども時代に読む本は、ほとんどが知らない世界の話で、珍しさを楽しむ読み方は、児童書を読んでいる感覚に近いのかも、と思います。

さてお話は、工業高校機械科1年、部活もコンピュータ研究部という理系女子、三郷心を中心に進みます。心の家は、おじいちゃんが興した金属工業の工場だったけれど、ある事件から廃業。それ以来、旋盤技術よりコンピュータが進んでいる、と信じています。しかし学校の「ものづくり研究部」に誘われ、旋盤作業をするうち、職人技の魅力に目覚め、先輩や仲間との関わりを深め、やがてものづくりコンテストをめざします。

 

続きを読む 0 コメント

2012年

2月

23日

盗まれたおとぎ話

「シンデレラ」や「塔の上のラプンツェル」、おどぎ話の不朽の名作たちの世界へ飛ぶ込むファンタジーです。

 

トムは、おとぎの国に住む冒険家一家トゥルーハート家の6人兄弟末っ子。一家は、おとぎ話工房より届くあらすじに従って、主人公として冒険に出発し、お話をエンディングへと導いていくことを家業としています。ある日、おとぎ話の世界に繰り出したお兄さん達が、戻ってこなくなってしまいおとぎ話が終わらなくなってしまいました。末っ子トムは、心配するお母さんのためにお兄さん達を探し出し、おとぎ話を終わらせるべく、初めての冒険に旅立ちます。

 

トムの冒険には、おとぎ話の登場人物が物語の鍵を握る存在として現れ、手助けをしてくれます。りんごを食べて眠ったまま目を覚まさない黒髪のお姫様を守る小人達や「ヘンゼルとグレーテル」から飛び出してきたお菓子の家が物語を彩ります。それらのおとぎ話をもう1度読み直してから、本書を再び手に取れば更にまた楽しめそうです。

 

続きを読む 2 コメント

2012年

1月

06日

アンネ・フランクをたずねて

ナチスの迫害によって、若くしてこの世を去ったアンネ・フランク。彼女を敬愛し、「アンネの日記」を愛読書としてきた著者が、そのゆかりの人々や土地をたずねて書き下ろしたノンフィクションです。

 

本書は「アンネ・フランクの記憶」(小川洋子 角川文庫/1998年刊)をもとに、同著者によって少年少女向けに新たに再編されました。 再編本ということで、取材時期の関係により、現在は故人となったアンネゆかりの人々も登場しています。しかし、本書を刊行するにあたって著者の小川さんは、2010年にアウシュビッツを再訪し、それをまとめたものが若干ながら加筆されています。

隠れ家生活という辛い毎日を前向きに生きたアンネ・フランクという一人の少女を、ナチスの暗く、残酷な時代背景と共に追っていきます。要所に「アンネの日記」にある言葉を用いつつ、小川さんならではの女性らしい視点でアンネを分析しつつ話は進みます。


取材で訪れたゆかりの人々へのインタビューや、各所へ足を運び、生の空気を感じたからこそ出来る貴重なレポートは大変意義のあるものです。思わず顔を背けたくなるような歴史の惨状にも、決して目を背けずに受け止めるという著者の姿勢がとても印象的に描かれています。そして、読者もそれを史実として受け止め学ぶことによって、たくさんのことを本書は訴えかけてくれると思います。

続きを読む 0 コメント

2011年

12月

28日

【特集:2011年のベスト本】YA*cafeでおすすめされていた本-その2

引き続き、YA*cafeでみなさんがおすすめしていた本をご紹介します!

秘密の道をぬけて

ロニー ショッター (著), 中村 悦子 (イラスト), 千葉 茂樹 (翻訳) 

あすなろ書房  2004年

 

夜の闇からあらわれた黒人の一家。偶然目をさましたアマンダは、おとなたちの“秘密”を知ってしまう。いったいその秘密とは…。逃亡奴隷を助けた一家の物語。(「BOOK」データベースより)

続きを読む 0 コメント

2011年

12月

26日

【特集:2011年のベスト本】YA*cafeでおすすめされていた本-その1

以前参加した、YA作品の読書会「YA*cafe」。今回はおすすめのYA作品を1、2冊を持ち寄って集まるとのことで、行ってきました。新刊既刊、児童書一般書さまざまで、YAの入り口からみなさん面白い読書体験に広がっているんだな、と実感しましたよ!

参加したみなさんのおすすめ作品を、ランダムにご紹介していきます。

 

フォスターさんの郵便配達

エリアセル・カンシーノ=著, 猫野ぺすか=イラスト, 宇野和美=訳 偕成社 2010年

 

つい、うそばかりついて、学校にも行かない少年ペリーコ、村にただひとりのイギリス人フォスターさん。ふたりの出会いは、ペリーコの世界を大きく変えていく。一九六〇年代スペイン、海辺の村を舞台にえがかれるだれもが共感する、みずみずしい成長の物語。スペイン実力派作家のアランダール賞受賞作。小学校高学年から。(「BOOK」データベースより)

 

続きを読む 0 コメント

2011年

12月

23日

怪物はささやく

この物語には二人の著者がいます。

2006年に『A Swift Pure Cry』で鮮烈なデビューを果たし、その後児童文学を4作残しながらも早世したシヴォーン・ダウド。彼女の原案をもとに、カーネギー賞受賞作家でもあるパトリック・ネスが彼女からバトンを引き継いで作品化しました。

 

物語はある夜、13歳の主人公コナーのもとにイチイの木の姿をした怪物が現れるところからはじまります。最初は“いつものおそろしい夢”だと思っていたコナーも、それがどうも今回は違うということに気づきます。怪物は「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つ目の物語をわたしに話すのだ。おまえはかならず話す…そのためにこのわたしを呼んだのだから」と言います。

 

主人公も読者も、この時点では怪物の言っている意味がよくわかりません。物語を語る?そこに一体どんな意図があるのか?しかし物語が進むにつれて、怪物の存在や語られる物語、“いつものおそろしい夢”の正体がおぼろげながら徐々に見えはじめてきます。

 

続きを読む 0 コメント

2011年

10月

12日

超絶不運少女1 ついてないにもほどがある!

 

 今年5月にスタートした青い鳥文庫の新シリーズです。


 作家名をどこかで見た気が、と思ったら、以前紹介した『ユリエルとグレン』の作者でした。

 講談社児童文学新人賞佳作でデビューし、昨年児童文学者協会新人賞を受賞、いよいよ青い鳥デビューと、児童書作家として順調に歩んでいるようです。

 

 小学6年生の女の子・花は、ことあるごとに災難がふりかかる不運体質。逆にラッキー体質の親友・蜜や、幼なじみでクールな男子荒野に助けられつつ、明るく元気でクラスを盛り上げる人気者です。

  しかし花と蜜のこの体質は、死神が実験のために仕組んだものだったーーということが、プロローグで語られています。異世界に運命を左右される女の子のお話、このシリーズ読者の好奇心をくすぐる設定です。

 

 そのうえ運が悪いことを気にせず、ひたすら前向きな花は、死神の思い通りにはならない予感。人間界に忍び込んだ死神との関係も面白なっていきそうです。花が恋愛体質ですぐにイケメンにひとめぼれとか、逆に花に思いを寄せる同級生ライバルとか、小学生的な恋愛要素もあり、エピソードのバリエーションも広がりそう。高学年女子にはツボがたくさんあるのでは。

 名作の新訳やヒット作の新書化、ノベライズ作品などが多い児童書新書の中で、青い鳥文庫は新しい作家や、書き下ろしのシリーズが次々出てきていますね。出版社ごとの傾向が見られるようで、興味深く観察しています。

(makio)


『超絶不運少女1 ついてないにもほどがある!』
石川宏千花/著 深山和香/絵
講談社青い鳥文庫 2011年5月

続きを読む 0 コメント

2011年

10月

01日

ぼくがバイオリンを弾く理由

 第1回ポプラズッコケ文学賞奨励賞受賞作です。スカイエマ挿画つながりで探したら、文学賞受賞作にたどりつきました。

 

 自信満々で臨んだバイオリンコンクールで落選、バイオリンをやめようと決意した小学5年生のカイト。寄宿していた神戸から自宅のある広島に戻り、さまざまな出会いを通じて成長するひと夏の物語でした。

 コンクールのために派手な演奏をするライバルへの抵抗、家族からひとり離れてのレッスン生活、ずっと一人っ子だったのに兄弟が生まれると知った驚きなど、少年のたまった不安が爆発するに十分なはじまりでした。

 

 会場を飛び出して戻った広島駅で父親と出会い一緒にお好み焼き屋に入るのですが、お好み焼きを焼く職人技の描写が続き、夢中で食べるうちに不安がだんだんとほぐれていくという場面が印象的でした。緊張感あふれる神戸からゆったりした広島の夏へと、スムーズに展開していく転換点となっていました。

 

 その後の、元同級生のサッカー少年、いとこや近所のおばあちゃん、音楽家たちとの出会いは、どれもカイトに寄り添う、いい話です。広島という背景なので、戦争や原爆にまつわる部分もあり、そこも成長のきっかけになっています。少しうまく行き過ぎ?という気もしないでもないですが、前向きで爽やかになれる読後感でした。

(makio)

『ぼくがバイオリンを弾く理由』

西村すぐり著

ポプラ社 2008年10月

続きを読む 0 コメント

2011年

9月

07日

テッドがおばあちゃんを見つけた夜

 

勤務している中学校の図書室で購入しようと、スカイエマさんの挿絵作品をあれこれ読んでいるときに出会いました。

 

主人公のテッドは中学1年生で両親とアルツハイマー病のおばあちゃんと4人で暮らしています。ある日、両親が不在でおばあちゃんと留守番をしていたテッドが、ネコの餌やりを頼まれ隣家の納屋に行くと、そこにいたのは見知らぬ怪しい男! その風貌は町で起こった銀行強盗の犯人にそっくり!!

テッドはおばあちゃんを残して連れ去られてしまいます。

テッドは何度も脱出を試みますが、逃げ出すことができません。

自分の身の危険もあるし、残してきたおばあちゃんのことも気にかかるし・・・と、ハラハラドキドキの展開です。


テッドの、大好きだったおばあちゃんが変わってしまったことへの戸惑いだとか苛立ちだとか複雑な気持ちも読んでいると胸に迫るものがありました。

   (ニャン左衛門)

 

『テッドがおばあちゃんを見つけた夜』

 ペグ・ケレット 徳間書店 2011年5月

続きを読む 0 コメント

2011年

8月

28日

ピアチェーレ 風の歌声

 公募新人賞の、第8回日本児童文学者協会・長編児童文学新人賞受賞作品が単行本化、その年の第21回椋鳩十児童文学賞を受賞という華麗なデビューを飾った作品です。

 

 その背景や、表紙、装丁、タイトルなどから正統派の児童書、という印象がありますが、作品自体は意外とライトな読み心地でした。

 母親が亡くなった後、父親は別な家庭を持ち、祖父母、叔母、弟と暮らしている中学生、嘉穂。父にも、一緒に住む家族に遠慮して、部活も習い事もせず、すすんで手伝いをする、いわゆる「いい子」ですが、無理をしている自分にも満足できないでいます。

 

 あるきっかけから声楽に目覚め、才能を認められ先生について習い始めてから、自分自身も変化していく、という成長物語です。

 歌の才能に目覚め、周りも驚き、その音楽に圧倒されていく、というのは、漫画でも最近多くみかけますが、この作品もそれに通じるものを感じました。絵や文字という二次元で音の様子が再現され、それを読み手が感じる、という読み方に慣れているティーンズにも受入れやすいのでは。

 

 友達の片思いや、その相手であるピアノの才能ある男子、その母親である声楽の先生、など登場人物もイメージしやすく、ちょっと少女漫画風なイメージもあります。ハードカバーでまじめそう、と思わず気軽に読んでほしい作品でした。

 

『ピアチェーレ 風の歌声』

にしがきようこ 小峰書店  2010年7月

続きを読む 0 コメント

2011年

6月

08日

鍵の秘密

 1998年に第4回児童文学ファンタジー大賞奨励賞受賞作品です。大幅に加筆修正され2010年11月に刊行されました。


 刊行時に、「著者は超長編しか書かない」というような情報をどこかで見て気になっていました。本書は696ページ。A5版ハードカバーでずっしり重く、何度か外出に持っていき後悔しました……。確かに子どもの頃読んだ長くて厚い本は、図書館や家で読むものでした。子どもの本も新書など軽い本が増えているけど、「持ち歩かない本」も児童書の魅力のひとつかもしれません。

 物語は、主人公の小学生ノボルが、別の世界に出入りできる鍵を拾ったことから始まります。鍵の向こうには、悪の手によって闇に閉ざされた城があり、陰謀によって捕われた王女が助けを求める手紙と鍵を、救うべき人物に託す。その選ばれた人物が、ノボルというわけです。ノボルの父親は2年前に突然失踪していて、そのことと関係あるかもしれない、と考えて別世界に向かい、さまざまな人物との出会いや、こちら側にいる友だちとの葛藤などを経ながら冒険を繰り広げます。

 もう一つの世界、選ばれた者、悪の陰謀、囚われの姫など児童ファンタジーらしい設定や、勇気・友情・冒険などが絡み合う展開で、ある意味安心して読めました。ハリポタの次に何を読めばいいかわからない、という子どもたちにも入りやすいのでは。主人公が日本人で、学校や友だちの描写も多いので、共感を持ちやすいかもしれません。

 

 異世界で賢者や占い師と冒険しながら、父親のことを思い葛藤するノボルが、少し気負いすぎな印象もありますが、学校で合唱の練習をしたり、親友と暗号で手紙をやりとりする小学生の生活に、安心感があります。テープ起こしの仕事やヨガ教師になるための学校に通うお母さん、近所に住むさみしいおばあさん、北川さんも、いい存在です。このあたりが、海外ファンタジーにはない面白みでしょうか。

(神谷巻尾)

続きを読む 0 コメント

2011年

5月

27日

宇宙のはてから宝物

 今年度児童文芸新人賞受賞作です。

 

 主人公は小学6年生の女の子、あかり。「好きなものは、いちごキャンディーと、ぞうのぬいぐるみのスージーと、由宇。由宇はあたしのことを宇宙一わかってくれる男の子」とか、「多感な女の子のあかりと、彼女をそっと見守る由宇の心温まるお話」などの紹介文をみると、夢見がちな友情物語かと想像しましたが……そのイメージとはかなりギャップのある、ダークな側面のある作品でした。

 宝物箱やぬいぐるみを手放せないというのは、6年生にしては幼すぎる設定ではと思ったら、実はふたりともかなり深刻な家庭環境にいました。

 あかりの母親は「心の病気」で外出ができず、由宇の母はアルコール依存で夫婦喧嘩が耐えない。そこから逃げたり、反抗したりする術もないふたりは、なんとか折り合いをつけるために心のよりどころとして宝物や、想像の世界を持っている。その状況がわかるにつれ、いちごキャンディーとか、ぞうのスージーなどへの見方が変わってきます。

 ただ、親への複雑な心情、クラスメートや教師に対するいらだち、またそのなかで見つける楽しみなど、ふたりのストレートな行動や表現が子どもらしく、陰湿さに向かわないところが好感が持てました。

 タイトルや、こみねゆらのほのぼのイラストで手に取ると、裏切られた感はあるかもしれませんが、別の意味で収穫はあると思います。

(神谷巻尾)

 

「宇宙のはてから宝物」

井上林子作 こみねゆら絵

文研出版 2010年12月

続きを読む 0 コメント

2011年

5月

18日

愛をみつけたうさぎ

写真?と思うような表紙ですが、絵なんです。

 

文章はケイト・ディカミロさん。絵はバグラム・イバトーリーンさん。出版社はポプラ社です。著者のディカミロさんの作品はAmazonの紹介文にもある通り「ねずみの騎士デスぺローの物語」が有名らしいです。「デスぺロー」は2004年のニューベリー賞を受賞したとか。今度読んでみなくっちゃ。


うさぎの人形って珍しいですよね。それもそのはず、おばあさんから孫へのオーダー品なんです。ですが、実のところ、このうさぎのエドワードはおばあさんを失望させています。理由ははっきり書かれていませんが、理由はその部分まで読み進めた人ならわかるはず、です。この<人形のあらまほしき資質>みたいなものについては、ルーマー・ゴッデンも物語で書いていますね。(1冊でなく数冊に共通で書かれていたような?)

 

訳者のあとがきによると、人形の物語ということで「ピノキオ」を思い出したようですがワタシは内容からなんとなく「100万回生きたねこ」を連想しました。愛を知らない傲慢さと、愛を知った後の悲しさの対比からじゃないかなと思っています。
著者は日本の読者へのあとがきで「旅についての物語」であり、「心の旅についての物語でもあります」と書いていますが邦題のように「愛を見つけ」るまでの物語、というのが読んでいてしっくりきました。この邦題、うまいなー。ちなみに原題はサブタイトルの「エドワード・テュレインの奇跡の旅」です。

そして、この愛って普遍的な愛ともとれますが流れ的に、とっても恋愛のムードに近い感じがするんです。ワタシだけかな?


他の世界を知らない幼い時期、保護してくれる人たちの無償の愛を感じつつ、それを当たり前と思いなんら関心を持たない傲慢さ。やがてとある事故により、今までのものをすべて手放したままひとりぼっちになってしまう。新しい人たちとの出会い。愛されることを嬉しく思うが、相手の思い込みなど、気に入らない部分も受け入れねばならない。自分の意志ではない別れ。そしてさらなる新しい出会い。交流する人が増え、内面が豊かになっていく。けれど出会いと愛と別れがくりかえされることで心がくだけそうな悲しみを何度も味わい愛などいらないと諦めようとする。しかし、歳月がたつうち、心を開いて待つことをおぼえやがて運命の出会いがやってきた…。


どうでしょう、こんなふうに書くと、とってもロマンスな感じしませんか?

続きを読む 0 コメント

2011年

1月

22日

この世のおわり

 もう少し早く読んでいたら、昨年のベスト本に入れたのに…と、思える1冊でした。

 

 キリスト教の終末論を柱に、この世の終わりを食い止めようとする修道士と吟遊詩人、不思議な少女の3人がヨーロッパを旅する、壮大な物語。『漂泊の王の伝説』で日本でも注目されたスペインの女性作家、ラウラ・ガジェゴ・ガルシアが20歳の時に書き上げたデビュー作です。

 主人公たちは、世界を救うために必要な3つの宝石「時間軸」を探す旅に出ますが、それを阻む闇の秘密結社や強欲な権力者との手に汗握る攻防を繰り広げます。か弱く書物に夢中で修道士のミシェルと、たくましく世事に長けている吟遊詩人マティウス、独立心旺盛な少女ルシアという3人の絶妙なバランス、歴史ファンタジーや冒険物語としての面白さなどはもちろんですが、非常に魅力に感じたのは、懐の深さ、柔軟性のようなものです。

 中世ヨーロッパが舞台、しかもキリスト教が大前提の物語では、宗教観になじみがない日本人としては今ひとつ入り込めないことが、ままあります。しかしこの作品の、宗教者と吟遊詩人と魔女の血を引く娘、という組み合せは、それ自体相容れないもの。欧米人にとっても「他者」どうしが、共鳴しあい、受け入れていくという過程は、異文化圏の人々にも受入れられやすいのではないでしょうか。また、男女格差、マイノリティー、貧困など、現代にも通じる問題が盛り込まれ、時代も舞台も違うのに身近に感じられます。

続きを読む 0 コメント

2010年

12月

30日

【特集:今年のベスト本】『走れメロス』

 学校の授業で習うとその小説がつまらなくなってしまうことがあって、おそらく『走れメロス』は、“学校で習ったせいでつまらなく感じてしまう小説”のトップに冠されると思う。それは、『走れメロス』を“美しい友情を奨励する教訓”のように読むことが可能だからだ。

 

 疑い深く、次々と家族忠臣を殺していた王に、死刑を宣告されるメロス。彼は、“死はいとわないが、妹の結婚式に出るために3日だけ猶予がほしい。もし私が帰ってこなかったら、友人のセリヌンティウスを殺してくれてかまわない”という。王との約束を取りつけたメロスは、故郷に帰ってから結婚式を済ませ、再び王の元へ走る。途中いくどもくじけそうになるメロスだが、最後には死刑場にたどり着き、セリヌンティウスと抱き合う。それを見た王も改心してめでたしめでたし、が『走れメロス』のあらすじだ。

 でも、これはほんとうに美しい友情の話なのだろうか? 実は、文中で作者の太宰はメロスをこう描写している。


“メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。”


 この一文にひっかかると、『走れメロス』は友情万歳話から、無謀な若者が乱暴な約束を取り付けてしまい、途中でくじけそうになるがなんとか大義を忘れずに約束を守り通す話に変わる。バカな奴だって約束を守るくらいの意地はあるという話でもいい。太宰治だって別に「友情はすばらしー」と描きたかったわけじゃないかもしれない。

 文豪太宰治の『走れメロス』を中心に編まれた短編集は児童文庫でも大人気で、フォア文庫、青い鳥文庫、偕成社文庫、岩波少年文庫、角川つばさ文庫から発売されている。でも、つばさ文庫が抜群に面白い。子供向けの作りだけど、大人にだって初めて太宰を読む人にはこれを勧めたいくらいだ。
 それは、これが太宰のユーモアと情けなさを軸に編まれているからだ。 たとえば、『黄金風景』。うだつのあがらない作家生活を送っている主人公の元に、子どものころにいじめていた女中があらわれる。女中が品のいい中年の奥さんになっているのを見た主人公は、思わず逃げ出してしまう。だけど、その後彼女が自分を恨んでおらず、むしろ誇りに思ってくれているのを知り、心地よい負けの感情に包まれる。

続きを読む 0 コメント

2010年

12月

23日

【特集:今年のベスト本】『くつやのねこ』

 「長靴をはいた猫」を下敷きにした絵本です。

 

  繊細で可愛らしい絵が印象的です。 貧しい靴屋と暮らしているネコがその知恵を働かせて、何にでも変身できる魔物から靴の注文をとりつけますが、代金を払ってもらえなくて・・・。  話は単純ですが、クライマックスの絵が衝撃的です。

 

『くつやのねこ』

いまいあやの BL出版  2010年5月

 

0 コメント

2010年

12月

16日

【特集:今年のベスト本】 『僕とおじいちゃんと魔法の塔』

 

 香月日輪 最高のエンタメです。 

 主人公に成長がない?・・・いいんです。そーゆー話ではないのですから。 とんでもない人間(人間外)が繰り広げるやりたい放題の物語ですもの。 いや、主人公の龍神も第1巻でちゃんと成長します。

 

 でも、2巻以降は個性的なキャラたちに押されて透けてきます(笑) そして、この本も『妖怪アパート』とリンクしています。 ちなみに、この本を同じ学校の40代の栄養士に貸したら面白くて10回読み返したそうです。

(ニャン左衛門)

『僕とおじいちゃんと魔法の塔』①〜③

香月日輪 /著  角川文庫  2010年

0 コメント

2010年

12月

13日

きのうの夜、おとうさんがおそく帰った、そのわけは・・・・・・

 今年度、第48回野間児童文芸賞受賞作品です。

 夜なかなか帰ってこないおとうさんは、いったいどこでなにをしているんだろう。息子「あっくん」の疑問に、おとうさんがそのわけを説明する、という短編集です。

 

 野間児童文芸賞といえば、児童文学賞のなかでもっとも権威があるといわれています。過去には、松谷みよ子「小さいモモちゃん」(2回)、斎藤惇夫「ガンバとカワウソの冒険」(18回)、角野栄子「魔女の宅急便」(23回)など児童書の名作のほか、あさのあつこ 「バッテリー」(35回)、たつみや章「月神の統べる森で」(37回)、椰月美智子「しずかな日々」(45回)などYA世代向け作品への授賞も多く、幅広い児童書から選んでいます。

 「きのうの夜、」は小学校低学年向けですが、なかなか味わい深く、児童文学賞の受賞もなるほど、という印象の良書でした。

 各短編は、おとうさんが寝る前のあっくんに、きのう遅くなったわけを語りかける、というスタイルですすみます。あるときは帰り道にモグラやみみずに出会って地下深くまで穴掘りをし、あるときはくまがとばした帽子をとるために木登りをして、とおとうさんは動物たちに頼まれてさまざまな冒険をします。

 その冒険は、世界の危機を救い、家族や人々のくらしを守るために必要なことがわかり、一生懸命がんばるおとうさん。野球、木登り、ボート漕ぎなどで大活躍したお父さんは、こんどはあっくんと一緒にやろう、と話します。

続きを読む 0 コメント

2010年

11月

28日

【特集:今年のベスト本】「ミラクル☆コミック3 ホントの世界をつくろう」

私のベスト1は、「ミラクル☆コミック3巻 ホントの世界をつくろう」です。

本作シリーズの主人公は、マンガ読みの両親のもとで育てられたサラブレットのオタク少女です。
ある日、憧れの漫画家先生にファンレターを書いたことがきっかけで、近くにある仕事場にお呼ばれされます。当日、お邪魔してみるとその日が連載マンガの締め切りで、アシスタントの人もお休みで人手が足りない。
あれよあれよと主人公がマンガ描きの手伝いをすることになって……と、ここまでは多少のツッコミどころはあろうと予想の範囲内だったのですが、そのあと、こちらの想像を上回るカオス展開に突入していきます。

これだけだと、ただドタバタでコメディタッチな内容の作品なのかと思われるかもしれませんが(実際そういった側面もありますが)、本作の真骨頂は「寓話性と社会風刺性」だと思っています。

主人公は両親の影響によりマンガ好きであることが災いし、なかなか気が合う友だちができません。そんな日々、自分に話しかけてくれたクラスメイトの女の子と仲良くなりたいと、マンガ修行を通じてコミュニケーションの仕方を学んでいきます。
この主人公をとりまく出来事が、実は現代の社会状況をかなり反映していて、娯楽作ではありますが「いまの子どもたちの持つ悩み」にかなりコミットしていると思えます。
また、作品の柱となってる“あるギミック”が社会学などでも言われている社会状況を的確に映していて、こちらでも感心させられました。

3巻で扱われているのは、主人公をいじめてきた「いじめっ子の心理」です。
実はこれも、有識者が指摘するようないじめっ子の心理分析とかなり合致していて、「児童文学」としてかなり良書なんじゃないかと唸らされました。
近年言われている「児童文学のライトノベル化」という流れにあって、イラストからしてライトノベルチックな作品なのですが、娯楽要素を担保しつつ、現代の子どもたちの問題を描くという「ライトノベル的児童文学」みたいな可能性を感じさせる作品だと思います。

騙されたと思って、読んでみて頂きたい一冊です。

(すがり)

続きを読む 0 コメント

2010年

9月

27日

「つづきの図書館」

 今年度、第59回小学館児童出版文化賞受賞作品です。

 故郷に戻り、図書館分室に司書として勤めることになった40代バツイチの桃さん。そこにあらわれたのは「読んでくれた人のつづきが知りたい!」と、絵本の中から出てきたはだかの王様や、狼。彼らと一緒に人探しをしながら、自分自身の思い出もよみがえってくる。そんなファンタジーです。

 

 次々に絵本の登場人物が出てきて、それぞれの謎をとく、というミステリー仕立ての連作短編集のおもむきですが、最初「青い鳥文庫」のサイトで連載していたからでしょう。web連載発というものもあって当然な時代でしょうが、小学生はネットで小説を読むのか、というとどうなのでしょうか。

 

 書籍には書き下ろしも加わり、各話にちりばめられた仕掛けが結びつき、桃さんの物語としての結末を迎え、長編としての充実した読後感を味わえました。

 

 作者の柏葉幸子さんは、『霧のむこうのふしぎな町』が著名な、主要な児童文学賞総なめの、児童書ファンタジーの大御所作家、という印象があります。ちょっと変わり者ぞろいの登場人物、自然なファンタジー要素、物語のわくわく感などとても児童書らしく、「絵本の次に読む本」として子どもが入りやすい本なのでは、という気がします。変に教訓じみたり、感動的になりすぎたりしないところも好感が持てます。

 さて、賞のほうもちょっと調べてみました。小学館児童出版文化賞は、1952年に「小学館文学賞」「小学館絵画賞」として創設、1996年に統合して改称されました。

 

 選考対象は、1年間に発表された絵本、童話・文学、その他(ノンフィクション、図鑑など)と幅広く、過去の受賞作も、伊藤たかみ『ミカ!』(49回)、森絵都『DIVE!』(52回)、長谷川義史『ぼくがラーメンたべてるとき』(57回)、松岡達英『野遊びを楽しむ里山百年図鑑』(58回)など、さまざまなジャンルの作品が並んでいます。

 

 今回W授賞となった『ぶた にく』も豚が肉になるまでを追った、ノンフィクション写真絵本です。 賞のサイトには候補作が並んでいましたが、この1年の児童書関連の話題作、注目のテーマ一覧、といった様相でおもしろかったので掲載してみました。

続きを読む 2 コメント