第1章 ライトノベル化する児童文学

 

はじめに

 

 児童文学と聞いて、皆様はまずどういった本を思い浮かべるでしょうか? 低学年向けであれば、大判のハードカバーに、優しい文体と大きな文字、そして童話的なイラストが挿絵になっている本を思い浮かべるのではないかと思います。 

 

 『ズッコケ三人組』『かいけつゾロリ』『はれときどきぶた』と聞けば、一度は読んだことがあるに違いありません。

『それいけズッコケ三人組』作:那須正幹 絵:前川かずお(ポプラ社)1983年  
『かいけつゾロリのドラゴンたいじ』作・絵: 原ゆたか(ポプラ社)1987年  
『はれときどきぶた』作・絵:矢玉四郎(岩崎書店)1980年

 高学年向けであれば、古典とも言うべき、日本や世界の文豪たちの名作を新書版などに収めた作品などが思い浮かぶのではないかと思います。

『風の又三郎』作:宮沢賢治 絵:田代三善(偕成社文庫)1976年    
『坊っちゃん』作: 夏目漱石 絵:一ノ関圭 (岩波少年文庫) 2002年  
『ああ無情』作:ビクトル=ユーゴー 絵:篠崎三朗、金斗鉉 訳:塚原亮一 (講談社青い鳥文庫) 1989年

 こういった作品は児童文学の書籍の主流であり、事実、児童文学を出版している出版社の新刊を見ても、これらの本が主力です。 ですがその一方で、この児童文学というジャンルに、まったく新しい動きが起こっていることを皆さんはご存知でしょうか?


 多少古い情報になりますが、ここに3年前、2007年1月のある週の単行本売り上げのランキングがあります(紀伊国屋書店BookWeb 単行本 週刊ベストセラー2007年1月15日~1月21日)。 注目していただきたいのは、8位と16位、そして20位です。表記のタイトルだけでは判りにくいと思われるので、これら3冊がどういった本なのか紹介しておきましょう。

『黒魔女さんが通る!! part5 5年1組は大騒動!の巻』作:石崎洋司 絵:藤田香(講談社青い鳥文庫)2007年  
『若おかみは小学生!花の湯温泉ストーリー(9)』作:令丈ヒロ子 絵:亜沙美(講談社青い鳥文庫) 2007年  
『黄金に輝く月 妖界ナビ・ルナ〈10〉』作:池田美代子 絵:琴月綾(岩崎書店/フォア文庫)  2007年

 ご覧のように見事なまでに、マンガ・アニメ系の表紙の本が、一般書ベストセラーの上位に食い込んでいるのです。

     
 また、この写真をご覧ください。中規模書店、その児童書のスペースの一角です。そこで平積みにされている本の多くの表紙が、マンガやライトノベルと見まごうばかりのイラストになっているのがお分かりでしょうか?

 

(写真:新百合ケ丘サティ)

 この事に私が気が付いたのは2006年の秋ごろ。書店の店員などをされている方は、もっと早い頃から気が付かれていたと思いますが、ともあれ児童文学というジャンルに、只ならぬ動きが起きている事はご覧の通りです。 この動きを目の当たりにして、私が気になった点を挙げますと、


 ・一体いつ頃からこの変化がはじまったのか?

 ・この傾向は、単にイラストを今風に合わせただけなのか?内容は? 

 ・どういった出版社が動いているのか?


の三点でした。 では、この児童文学というジャンルに、いつ頃からこういった変化が現れてきたのか、各出版社の刊行履歴を元に分析したいと思います。

 

【本格化は2004年】

 

 児童文学を出版している出版社は数多くありますが、その中でも新しい創作作品を積極的に送り出している出版社は、この2004年の段階では意外に限られていたようです。

 

 その中でも特に注目すべきブランドは、講談社の「青い鳥文庫」、そして岩崎書店、金の星社、童心社、理論社の四社が協力出版している「フォア文庫」の二つでしょう。

前述のベストセラーランキングでランクインを果たした作品を出しているのも、この二つです。いわゆるライトノベル化を最も積極的に行なっており、未だこの二レーベルの存在は大きいといえます。

 調べてみると、漫画的なイラストと内容を合わせた作品が出てくるのは、フォア文庫は2000年の『マリア探偵社』が最初です。青い鳥文庫は2003年に『若おかみは小学生!』をスタートさせ、他にもいくつか動きはあったようですが、この時期を嚆矢としては見るべきものの、作品数は単発的で本格化したとは言い難いといえるでしょう。 

 

 ですから、この二つのブランドのみならず業界全体が本格的に動き出したのは2004年に入ってからと見たほうが良さそうです。

 

『マリア探偵社 呪いのEメール 』作:川北亮司 絵:大井知美(理論社/フォア文庫) 2000年

 この年、フォア文庫はイラストに漫画系を用いた作品、『妖界ナビ・ルナ』、『魔女探偵団』、『少女戦士シュリー』などを刊行。他の出版社では、ジャイブから「カラフル文庫」が2004年にスタートしています。『IQ探偵ムー』『帝都<少年少女>探偵団』がアンソロジーにてシリーズが始まり、単行本化もしています。 

 

 また学研の「エンタティーン倶楽部」も開始されるなど、この時期に一斉に漫画的なイラストを用いた作品が、点数こそ少ないながらも出回り始めました。 なお2004年の段階では青い鳥文庫は、『カードゲームクロニクル』の刊行以外にこの動きに乗っておらず、本格的に動き出すのは翌年の2005年になってからです。

『魔女探偵団〈1〉バレン姫の魔法のつえ』 作:藤真知子 絵:岩本真槻 (岩崎書店/フォア文庫)  2004年  
『少女戦士シュリー〈1〉黒き魔神の森』 作:大林憲司 絵:渡瀬のぞみ (岩崎書店/フォア文庫)  2004年  
『IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。』 作:深沢美潮 絵:山田 J太(ジャイブ/カラフル文庫) 2004年

 

【新レーベルが続々誕生 2005年から2006年】 

 

 2005年には児童文学作品で売れ筋のシリーズがひと通り出揃うなど、流れはもはや揺るがないものになってきました。


 最も積極的に動いていたフォア文庫は、『ナビ・ルナ』のヒットを受けて路線の拡大。カラフル文庫は前年にアンソロジー集ですでにお披露目していた『帝都<少年少女>探偵団』が単行本化。ポプラ社も対象を小学校高学年から中学生とした「Dreamスマッシュ!」レーベルを開始。

 

『吸血鬼あらわる! 帝都〈少年少女〉探偵団ノート』 作:楠木誠一郎 絵:来世・世乃(カラフル文庫)2005年  
『らくだい魔女はプリンセス』作:成田サトコ 絵:千野えなが(ポプラポケット文庫)2006年

 

 そして青い鳥文庫は『黒魔女さんが通る!!』の刊行とヒットを受けて、翌年の06年からは積極的に変革を行なっていくようになりました。このブランドの重鎮だった楠木誠一郎の『タイムスリップ探偵団』は、挿絵が劇的ビフォーアフター。恐るべし講談社。

『坊っちゃんは名探偵! 夏目少年とタイムスリップ探偵団』 作:楠木誠一郎 絵:村田四郎(講談社青い鳥文庫)2001年 

『坂本龍馬は名探偵!! タイムスリップ探偵団と龍馬暗殺のナゾの巻 』作: 楠木誠一郎 絵:岩崎美奈子(青い鳥文庫) 2006年

 

 その後2006年にジャイブがポプラ社の傘下に入ったり、新風舎がENTA-Jというレーベルを立ち上げるも、自費出版のトラブルなどの数々の社会問題を起こして倒産するなどの動きがありました。

 


【新たな参入 2009年】


 動きが一段落したかに見えた2009年からは、角川グループパブリッシングが「角川つばさ文庫」レーベルを開始。これまでの動向を分析してか、先発のどの出版社よりも積極的に、この方向性の作品を送りこんできました。

 

『天才作家スズ秘密ファイル(1)シュークリーム王子の秘密』作:愛川さくら 絵:市井あさ(角川つばさ文庫) 2009年  
『ヴァンパイア大使アンジュ(1)兄妹そろって、吸血鬼!?の巻』  作者: 川崎美羽 絵:近衛乙嗣(角川つばさ文庫)2009年


【各レーベルの動向と注目作家】


●フォア文庫


『シェーラ姫の冒険』『少女海賊ユーリ』など良質のファンタジー(ユーリはSF要素も濃厚)を送り出しているのがこのフォア文庫ですが、前述のように『妖界ナビ・ルナ』が大ヒットした事を受けて(書店の児童書コーナーではかなりの率で全巻平積み)この路線の拡大に最も積極的です。『マジカル少女レイナ』『魔界屋リリー』『くるみの冒険』などの少女マンガ的な作品、また思春期向けの恋愛作品なども多く出しています。

『マジカル少女レイナ<1>謎のオーディション』作:石崎洋司 絵:栗原一実(岩崎書店)2005年
『魔界屋リリー バラの吸血美少女 』作:高山栄子 絵:小笠原智史(金の星社)2006年
『くるみの冒険〈1〉魔法の城と黒い竜』作:村山早紀 絵:巣町ひろみ(童心社)2009年
『ラブ偏差値 もしかして初恋!?』作:斉藤栄美 絵:米良(金の星社)2006年

また、児童文学には翻訳以外では珍しいSF作品『パルサー宇宙戦記』、本格的な巨大ロボット作品『フルティメット・アームズ』など、児童文学というジャンルの裾野を広げる事に、最も積極的です。

『パルサー宇宙戦記 みずがめ座の剣』作:川北亮司 絵:ぬえりつき(金の星社)2004年
『フルティメット・アームズ〈1〉巨大ロボ・アギオス爆動』作:蕪木統文 絵:ちくやまきよし(童心社)2006年

この流れを盛り上げた池田美代子はホームグランドを青い鳥文庫に移してしまいましたが、川北亮司、石崎洋司、村山早紀らは健在。何よりこのレーベルは廣嶋玲子、梨屋アリエ、松田朱夏らが送り出した、一筋縄ではくくれない、とてもクセの強い作品が多いので、これからも動向に目が離せません。

『はんぴらり!〈1〉 妖怪だらけの夏休み』作:廣嶋玲子 絵:九猫あざみ (童心社)2007年
『ハピ☆スタ編集部 なんであたしが編集長!?』作:梨屋アリエ 絵:甘塩コメコ(金の星社)2008年
『ミラクル☆コミック1 ひみつのアシスタント』作:松田朱夏 絵:琴月綾(岩崎書店)2009年



●青い鳥文庫


 『若おかみは小学生!』『黒魔女さんが通る!!』という二大ヒットを送り出したこのブランドは、2006年からは特に絵師の起用に積極的で、特にCLAMPを呼んだりするなど話題づくりにも積極的です。

その上、書店でも大々的にスペースを押さえているので、最もラノベ化に勢いがあるようにも見えますが、その実、各社が動き出した2004年時点ではあまり動きを見せておらず、また絵師をマンガ・アニメ系に切り替えていても内容は今まで通りという作品も多いのが特徴。2010年現在でもこの基本姿勢は崩していないと言えます。

 

 

魔女館と秘密のチャンネル』

作:つくもようこ 絵:CLAMP 2007年

創作系児童文学で大手の青い鳥文庫は、フォア文庫でも触れましたが、こちらでは『黒魔女さんが通る!!』を送り出した石崎洋司が筆頭でしょう。 

 

講談社でありながらタイアップもないのにカードゲームを題材にした作品を2001年ごろからすでに発表、そして現在では『黒魔女さんが通る!!』を送り出している新世代の児童文学作家の代表と言っても過言ではないでしょう。というかこの方、児童文学のラノベ化の権化というほうが正確な気がします。

 

『カードゲームクロニクル〈1〉風水アドベンチャー』

作:石崎洋司 絵:緒方剛志 2004年

 また、ラノベ化の流れには直接関係していませんが、推理作品の多い、はやみねかおるも押さえておくべきでしょうか。この方は講談社繋がりで漫画化される作品が多いのが特徴です。

『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート』作:はやみねかおる 絵:村田四郎 1994年
『名探偵夢水清志郎事件ノート(1)そして五人がいなくなる』作:えぬえけい,はやみねかおる (講談社KCデラックス)2004年

 他に、アンソロジー『あなたに贈る物語』(2006年11月)で発表された後に、書きおろしが単行本化された『少年探偵WHO』があります。 元々『ぼくと未来屋の夏』という作品の作中作品だったのですが、漫画化の際に漫画版での登場人物の追加などの影響を受けて、スピンオンして開始されたという珍しい作品です。

『少年名探偵WHO-透明人間事件- 』作:はやみねかおる 絵:武本糸会 2008年
『ぼくと未来屋の夏』 作: はやみねかおる 2003年
『ぼくと未来屋の夏(1)』  作: 武本糸会,はやみねかおる(講談社シリウスコミックス)2006年

 そしてフォア文庫だけでなく青い鳥文庫にて『摩訶不思議ネコ・ムスビ』を執筆していた池田美代子が、『妖界ナビ・ルナ』の漫画連載に合わせてか、フォア文庫最大級のヒット作だった『妖界ナビ・ルナ』ごと完全にこちらに移籍する事態に。時期的に講談社=青い鳥文庫の、角川書店=角川つばさ文庫への対抗策とも見て取れますが、真相は如何に。

●学研エンタティーン倶楽部 

 

 2004年から刊行が開始され、スタート以前の連載の当初から『幻奏戦記ルリルラ』の小笠原智史氏をイラストに呼んでくるなど、実に思い切りの良いスタートとなったのですが、如何せん刊行数がそのものが少なく(6年間で36冊)、他社の勢いに埋没してしまっているのが惜しまれます。学研はあまり本腰を入れていないという事なのでしょうか……。

 

 

 

 

 

 

 

『トリシア、ただいま修業中! 』

作: 南房秀久 絵:小笠原智史 2004年

 

●ポプラ社ポケット文庫 

 実は1980年代から90年代のポプラ社文庫には、「SF・ミステリーシリーズ」(1986年~1993年)、「フレッシュ学園文庫」(1990年6月~1992年11月)というマンガ・アニメ的イラストを多用するシリーズ(レーベル)がありました。ですがどちらも1990年代前半に途絶えてしまい、今に直接繋がっているわけではないようです。ともあれ児童書では最大手のポプラ社。手堅く着実です。

 

 

『瞳の中の宝物』

作:折原みと(フレッシュ学園文庫)1990年

 注目作家は、ポプラ社ポケット文庫でデビューを果たし、『らくだい魔女はプリセンス』でそのまま屋台骨となった成田サトコです。無難に手堅い印象なので、もっと我がにじみ出るような作品も読みたい所です。


 また、堀口勇太も読みごたえがある作品を送り出しています。シリーズは終了しましたが『闘竜伝』の渡辺仙洲も挙げましょう。闘竜というスポーツの設定からルール、空戦軌道(バレルロール)まで、とかく緻密に練りあがっており、少年少女の青春群像としての出来も良好でした。どの方もこれからがさらに楽しみな作家たちです。

 

『魔法屋ポプル「トラブル、売ります」』作: 堀口勇太 絵:玖珂つかさ 2008年
『闘竜伝 夢への1歩 Dragon Battlers』作: 渡辺仙州 絵:岸和田ロビン 2006年

 

 あとは、あの『ルドルフとイッパイアッテナ』』の斉藤洋が参入していることも書き漏らすわけには参りません。最後に、フォア文庫でも言及しましたが川北亮司はこちらでもその名が。大ベテランの適応力には本当に驚かされます。

『霊界交渉人ショウタ〈1〉音楽室の幽霊』作:斉藤洋 絵:市井あさ 2009年
『おほほプリンセス わたくしはお嬢さま! 』作:川北亮司 絵:魚住あお 2009年

 

●カラフル文庫


 児童文学への参入に際して、元々ライトノベル系だった深沢美潮や、青い鳥文庫の大御所である楠木誠一郎などのベテランを呼んだ上で、イラストには開始当初からマンガ系を起用するなど、新規参入らしい豪快な手を打っていました。 それらが功を奏して、この二人の『IQ探偵ムー』『帝都<少年少女>探偵団ノート』は順調に看板として成長。また、ポプラ社の傘下に入った事を裏付けるように、『IQ探偵ムー』などはポプラ社から発売され、さらにレーベルもポプラ・カラフル文庫となり、名実共にポプラ社に引き抜かれた形になりましたが、レーベルとして独立しているのでこちらで取り上げさせて頂きます。


 カラフル文庫からは、深沢美潮と楠木誠一郎、そして藤野恵美は、外せないでしょう。 深沢美潮は児童文学系では珍しい(マンガ・ラノベでは逆にありふれた)不思議系美少女を主人公に据えて、物語を見事に展開させている点を。楠木誠一郎はラノベ的というより、読み応えのある王道の少年探偵団系作品を手がけていますから(これは青い鳥文庫の「タイムスリップ探偵団」も同様)。怪盗ファントム&ダークネスの藤野恵美は高水準の本格ミステリとして評価すべきでしょう。 そういえば、ここでも『星占い少女ミウ』にて石崎洋司の名前が……。

『怪盗ファントム&ダークネスEX-GP 1』作:藤野恵美 2008年
『星占い少女ミウ?呪いのホロスコープ』作:石崎洋司 絵:岩崎つばさ 2004年

 

●角川つばさ文庫


 2009年春、これまでフォア文庫と青い鳥文庫の二大レーベルが圧倒していたこのジャンルに一大勢力が参入しました。それが角川グループパブリッシングの角川つばさ文庫です(上位年齢向けに「銀のさじ」レーベルも用意しています)。 これまでの経過、売れ筋を分析しつくしてきたためか、方向性に全く迷いがなく、また、テレビアニメや映画のノベライズや、角川書店のメジャータイトルの移植やスピンオフを行っているのも大きな特徴です。

『スレイヤーズ1 リナとキメラの魔法戦士』作:南房秀久 絵:日向悠二 2009年
『小説侵略! ケロロ軍曹 撃侵ドラゴンウォリアーズであります! 』作:伊豆平成 絵:吉崎観音 2009年
『涼宮ハルヒの憂鬱』作:谷川流 絵:いとうのいぢ 2009年

 

 レーベル全体としては有名作品のスピオンオフを数多く行って注目を集める一方で、これまで児童書ではあまり知られていなかった、あさのますみ、鷹見一幸、秋木真などの多彩な経歴の作家が活躍しているのが一番の特徴でしょう。このまま角川つばさ文庫には新しい人材の開拓を続けて欲しいものです。

『ウルは空色魔女(1) はじめての魔法クッキー』作:あさのますみ 絵:椎名優 2009年
『飛べ! ぼくらの海賊船』 作: 鷹見一幸 絵:岸和田ロビン 2009年
『怪盗レッド(1) 2代目怪盗、デビューする☆の巻』 作:秋木真 絵:しゅー 2010年

 


●ENTA-J


 最後に。2006年4月発売の『ぼくらの町ミステリーロード』の刊行を持って開始された新風舎の児童文学レーベルがENTA-J(エンタ・ジェイ)。アニメ感覚で夢中になって読めるという触れ込みの通り、ライトノベル化を大前提にした思い切りの良いラインナップでしたが前述のように新風舎は2008年に破産し、レーベルも消滅しています。 ですが出版社に問題はあっても個々の作品に非があるわけでは決してありませんので、この流れの一つとして取り上げさせていただきます。

 

【総論:「読ませたい」本から「読みたい」本への変化】


 というわけで児童文学のライトノベル化という視点から、ここ最近激動を見せる児童書籍、主に新書版サイズの「文庫」系作品の動向をまとめて俯瞰してみたわけですが、いかがだったでしょうか?

 

 今回調べてみて驚いた事の一点目は、これからこの分野を新規開拓しようという新興ブランドはともかく、青い鳥文庫やフォア文庫といった歴史のある老舗ブランドが、積極的にこの動きを引っ張っていた事。 

 もう一点の驚きは、新興ブランドは小学校高学年から中学生をターゲットにしている作品が多いのに対して、老舗の中心は小学校三、四年生以上の中学年から高学年向けだったということでしょうか。

 事実、最初に取り上げた三作品、フォア文庫の『妖界ナビ・ルナ』も青い鳥文庫の『若おかみは小学生!』『黒魔女さんが通る!!』もこの年代向けの作品。一概にイラストが「萌え化」した、とだけと言える様相ではないのです。

 

 しかし考えてみればこの動き、ある意味必然だったと言えるのではないのでしょうか? 児童文学とそのブランドの作品は一般的に、親が子供に買い与えることがほとんどで、子供の年齢が上がれば上がるほどこの傾向は強くなります。

 未就学児童や小学校低学年対象であれば、描かれているキャラクターへの嗜好もあって、あんな本がいい、こんな本がいいと、子供たちは自己主張することでしょう。

しかし年齢が上がればこういった児童文学への興味は薄れ、本といえばマンガに流れるか、一足飛びに本格的な小説に流れるもの。また本そのものへの興味が弱くなる子供もかなり多いことでしょう。


 ですが親や教師などの保護者としては、教養や勉強の為に活字に触れて欲しい、古典的な名作文学に触れて欲しいと願って、比較的安価に手に入り、文字もそこそこ大きくて読みやすいということで、子供たちの為にと買い与えるものです。 

 ということで、読まれるかどうかはさておいて、家の本棚や学校の図書室、あるいはクラスの学級文庫などが、これらの文庫の安住の地になるわけです。

 

 ですのでこのジャンルの目線は購買層である親や教師の目線に合わせたものになることがほとんど。故に圧倒的な分量を、古典的文学作品や、偉人の話に、知識の為の入門書や反戦平和教育の為の物語などが占める事になったわけです。

 つまり、児童文学(とそれを納めるブランド)に求められて来たのは、親や教師たち保護者にとって「読ませたい」作品がほとんどだったと言えるでしょう。

 

 ですが少子化が進み購入する親の方も勢いが弱まり、図書室などの受け入れ先も、かなり以前に本が揃ってしまって売り上げは頭打ちどころか下降の一途。 そんな中で、創作系の作品の中でもマンガのようなイラストが挿絵で、内容もマンガ的で愉快で楽しい。つまりライトノベル的な、登場人物のキャラクター性を重視した作品が子供たちに「読みたい」と支持されてきたのが、今見られる児童文学のライトノベル化の流れに見えました。
 もちろん、それまでの児童文学作品に子供たちの目線にあわせて楽しんでもらおうとした作品がなかったわけではありません。当然そういった作品も星の数ほど存在していたわけです。

 

 ですがそれらの作品はよほどのことがないと子供たちの興味を引けなかったのも事実。 理由は単純で、挿絵が如何にも教科書的な画風だったために、押し付け臭さを感じて子供たちが避けてしまった事。やはり物語のイメージを第一印象から最後まで決定付けるのは挿絵のイメージですし、感受性が豊かな子供たちには特に重要ですから。

 

 いわゆる「萌え」系のイラストが多用される傾向についてですが、少なくとも老舗系の作品は、高年齢層も呼び込もうという意図よりも、これらの作品を最も熱心に読んでくれる子供たち、特にメインである女の子にとって、可愛らしくて受け入れやすいという理由から選ばれているようです。

 

 ともあれ、親が「読ませたい」と買い与えるの本と、子供たちが「読みたい」と買い求める本。どちらの方が反響が大きく、どちらの方が支持を得て、結果的に売れるのか。少なくともその答えが、最初に紹介した三作品の売り上げとして現れているのは間違いなさそうです。

(ゆーずー無碍)