2010年

12月

01日

吉永さん家のガーゴイル

本作はファミ通文庫というレーベルから出ているライトノベルのシリーズです。

ある日、吉永さん家の双葉ちゃんは商店街の福引で、言葉を話す犬の石像を引き当てました。その石像は、錬金術の技術を結集して作られた“最強の門番”で、吉永家に来るなり自らガードマンを買って出ます。

 

石像は、吉永家で“ガーゴイル”と名づけられるのですが、新聞配達のお兄さんをビームで黒焦げにしたり、いろいろとトラブルを巻き起こして、引き当てた当の双葉ちゃんからは厄介者扱いされてしまいます。また、錬金術最高の技術の結晶であるため、さまざまな錬金術師がガーゴイルに挑戦してきて、毎回騒動が引き起こされるといった内容が基本的なストーリーになります。

ライトノベルというと、最近は「冴えない男の子のもとにある日とつぜん美少女があらわれて~」というものが主流になってる印象ですが、「ご町内ハートフルコメディ」と題された本作は、どちらかと言えば児童書の娯楽作品に近い内容で、登場人物たちも美少女なんかに偏重せず、吉永家の面々をはじめ個性的でユニークなキャラばかりです。子どもも楽しめるというか、むしろ子どものほうが楽しめる内容になっています。

実は、本作は2006年にアニメ化もされていて一部では評価の声も高いのですが、放送が深夜帯であったためか、あまり人気が出なかったという印象でした。近年は、ライトノベルでも深夜のアニメでも、いわゆる“大きなお友だち”向けの作品ばかりが受けていて、こういった内容の作品があまり評価されないのをとても残念に思っています。

シリーズは全15巻で、姉妹作品の「ガーゴイルおるたなてぃぶ」が全4巻+1巻。どちらも、子どもに読んでもらいたい良質な娯楽作品です。アニメ版と合わせて、オススメさせて頂きます。

(すがり)

『吉永さん家のガーゴイル』田口 仙年堂/著 日向 悠二/イラスト  エンターブレイン(ファミ通文庫)2004年

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2010年

11月

28日

【特集:今年のベスト本】「ミラクル☆コミック3 ホントの世界をつくろう」

私のベスト1は、「ミラクル☆コミック3巻 ホントの世界をつくろう」です。

本作シリーズの主人公は、マンガ読みの両親のもとで育てられたサラブレットのオタク少女です。
ある日、憧れの漫画家先生にファンレターを書いたことがきっかけで、近くにある仕事場にお呼ばれされます。当日、お邪魔してみるとその日が連載マンガの締め切りで、アシスタントの人もお休みで人手が足りない。
あれよあれよと主人公がマンガ描きの手伝いをすることになって……と、ここまでは多少のツッコミどころはあろうと予想の範囲内だったのですが、そのあと、こちらの想像を上回るカオス展開に突入していきます。

これだけだと、ただドタバタでコメディタッチな内容の作品なのかと思われるかもしれませんが(実際そういった側面もありますが)、本作の真骨頂は「寓話性と社会風刺性」だと思っています。

主人公は両親の影響によりマンガ好きであることが災いし、なかなか気が合う友だちができません。そんな日々、自分に話しかけてくれたクラスメイトの女の子と仲良くなりたいと、マンガ修行を通じてコミュニケーションの仕方を学んでいきます。
この主人公をとりまく出来事が、実は現代の社会状況をかなり反映していて、娯楽作ではありますが「いまの子どもたちの持つ悩み」にかなりコミットしていると思えます。
また、作品の柱となってる“あるギミック”が社会学などでも言われている社会状況を的確に映していて、こちらでも感心させられました。

3巻で扱われているのは、主人公をいじめてきた「いじめっ子の心理」です。
実はこれも、有識者が指摘するようないじめっ子の心理分析とかなり合致していて、「児童文学」としてかなり良書なんじゃないかと唸らされました。
近年言われている「児童文学のライトノベル化」という流れにあって、イラストからしてライトノベルチックな作品なのですが、娯楽要素を担保しつつ、現代の子どもたちの問題を描くという「ライトノベル的児童文学」みたいな可能性を感じさせる作品だと思います。

騙されたと思って、読んでみて頂きたい一冊です。

(すがり)

「ミラクル☆コミック3 ホントの世界をつくろう」
松田朱夏・著 琴月綾 ・イラスト(岩崎書店/フォア文庫) 2010年10月

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2010年

8月

30日

C&Y地球最強姉妹キャンディ 大怪盗をやっつけろ!

 怪盗を敵に回して子供たちが大活躍! という話は少年探偵シリーズの昔から数多くありますが、本作ほど破天荒でかつ子供たち自身が大活躍する物語はそうそうありません。


 主人公は、11歳にして大学で先生をしている世界一頭のいい女の子、竜崎知絵と、抜群の運動神経とサバイバル能力を持つ地球最強の女の子、虎ノ門夕姫です。

 ふたりは親の再婚で姉妹となるのですが、そうとは知らずに出会った当日、知絵は自らの新発明を怪盗アラジンに狙われ、車で誘拐されてしまいます。 その場に居合わせた夕姫は、なんとローラースケートで追跡を開始! 序盤早々、手に汗握るアクションシーンが展開されます。

 

 敵役であるアラジン配下の悪人トリオは、ちょっとおマヌケでどこか憎めないタイムボカンシリーズを彷彿とさせるキャラクター。アラジン自身も、怪人二十面相に負けず劣らずのユニークな怪盗です。

 

 アラジン一味は何度も知絵の誘拐を企て、物語はどんどんスケールアップしていきます。やがてアラジンの真の目的を知った知絵と夕姫は、C&Y――キャンディを結成して、アラジンの企みを阻止すべく敢然と立ち向かいます。

 とにかく全編に渡ってハラハラドキドキの連続で、マンガやアニメを見ているような楽しさいっぱいの冒険ストーリーになっています。390ページとボリュームがありますが、そんな長さを感じさせないくらい、物語もキャラクターも魅力に溢れています。ハリーポッターなどと同じく、子供たち自身が読みたいと思えるような作品としては最良の一冊だと思います。 


 作者の山本弘さんは本作を自分の娘に読み聞かせるために書いたそうですが、なんとも幸せな娘さんです。子供に読書への興味を持ってもらいたいなんて思っている方、「C&Y 地球最強姉妹キャンディ」なんていかがでしょうか。

(すがり)

 

『C&Y地球最強姉妹キャンディ 大怪盗をやっつけろ!』山本弘

角川グループパブリッシング(銀のさじシリーズ) 2008年

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2010年

6月

07日

近年の児童書に見られる「主人公のお姫さま化」について

 

 以前、ゆーずー無碍さんのブログで「ライトノベル化する児童文学」という記事が立てられ、話題になりました。 

 新書サイズ児童書の分野で、マンガ・アニメ系のイラストを起用した「ライトノベル風」の作品が数多く刊行され出したといった内容のものです。 

 近年では完全に定着したように思われるこの流れですが、記事のなかで問題とされていたのは、下記の三点。


・一体いつ頃からこの変化がはじまったのか? 

・この傾向は、単にイラストを今風に合わせただけなのか?内容は?

・どういった出版社が動いているのか?


 そのうち上下の疑問に関しては2004年ごろを契機に「青い鳥文庫」や「フォア文庫」といった老舗レーベルが牽引役となり、他の出版社がその流れに追随したと記事でまとめられています。

 が、作品内容については、「皆様が実際に読んでみて判断してください」という記述に留められていました。

 では実際、作品内容に変化はあったのでしょうか?

 

 記事のなかで、ライトノベル化した作品として真っ先にあげられ、現在でもトップの人気作であるのが、「妖界ナビ・ルナ」「若おかみは小学生!」「黒魔女さんが通る!!」の三作品であることは異論がないところでしょう。 

 これらの作品は、イラストとキャラクター設定がマンガ・アニメ的な「キャラクター小説=ライトノベル」と形容できる作風であることはもちろんのこと、そのほかにもう一つ、それまでの児童文学とはおもむきの違う「ライトノベル的」と言える特徴を指摘できます。 

 

 

児童文学のひとつの潮流として、かつての少年探偵、ズッコケシリーズのように「みんなで一緒に事件をする」という作劇は、ながらくエンタメ児童書のトレンドであり続け人気を博してきました。 

 実際、ライトノベル化黎明期の青い鳥文庫やフォア文庫でも、「タイムスリップ探偵団」や「マリア探偵社」などの作品ではこの構造を採用していますし、同一構造の作品は現在でも数多く存在します。 

 が、近年特に人気を得ている「ナビ・ルナ」、「若おかみ」、「黒魔女さん」ではそれらの作品とは異なり、「事件を解決する私をみんなが助けてくれる」という構造が採られているのです。

 上記の三作品では、

 主人公の女の子に人外の友だちが複数人いて、さまざまな理由で主人公だけを特別扱いする

 このような特権的な位置に主人公が置かれる、という共通の特徴があります。

 かつての児童文学作品では、友だち同士で協力し合うことはあっても、お互いの関係性は横並びで「主人公だけ特別に周りからちやほやされる」という構図はあまり見当たりません。

 これが私が呼ぶところの、児童書における「主人公のお姫さま化」という状況になります。

 

 実はこの構図、ライトノベルでは定番の「主人公とヒロインの関係」に酷似しています。 

 ナビ・ルナあたりのヒットを起点に、児童書がライトノベル化したと言われていますが、構造レベルでもこういう図式をもった児童書が増え、より支持を受けているように感じられます。  


 つまり、「みんなで一緒に」から「友だちを独占したい」に児童書のトレンドに変化が生じたんじゃないかと考えられるわけです。 

 加えて、「お姫さま化」した作品には、その構図の裏返しとして、 


 友だちが自分以外の人間に関心を示したときや、自分から関心が離れたとき、主人公が焦燥感を抱く 


 というエピソードがまま見受けられます。 

 若おかみの場合、物語序盤のウリ坊は主人公であるおっこより、おばあちゃんである峰子ちゃんの方が大事であるような描かれ方がされていて、「ウリ坊にとって自分は二番目」という状況を、おっこは事あるごとに気にかけていました。 

 また、「黒魔女さんのシンデレラ」の回、四級試験の最中、悪魔情に渡された手紙でギュービットが自分のインストラクターを外されたと知ったチョコは、カボチャを蹴飛ばすほど周囲にあたりちらし、ギュービットが自分のインストラクターをやめないと知るや、涙を流して大喜びします。 


 さらに、「お姫さま化」とは異なりますが、これらの作品に次ぐヒット作の「IQ探偵ムー」でも、視点人物である元は、ヒロイン夢羽の関心がだれにむけられているかで一喜一憂します。 

 おっこと元の場合は、恋愛感情がほのめかされていますが、読者の視点に立って考えれば、「友だちには私だけをみてほしい」という願望が投影されているんじゃないかと推測できます。 

 それが証拠ではありませんが、ナビ・ルナシリーズと同じ池田先生の作品に「摩訶不思議ネコ・ムスビ」シリーズがあります。

 本作の一巻でも、「友だちの関心が自分以外に向いている」ことで不快感を示す、というエピソードが描かれていますが、そのことを問題にしていたのは主人公であるいつみではなく、友だちの莉々の側だったりします。

 ムスビシリーズは、キャラクター配置こそナビ・ルナと似ていますが、読者の願望充足という観点でみると、「お姫さま化」やそれにともなう「友だちの独占」という欲求には応えていない節があります。

 以前、青い鳥文庫で行われた人気投票で、本作はそれほど上位にランキングされていなかった記憶がありますが、ポイントはやはり「読者の願望の在り処」にあったんじゃないでしょうか。

 それでは、なぜ読者の関心がこのように変化したのか?

 理由はさまざま考えられますが、異なるジャンル、違った読者層にも関わらず、ライトノベルと児童書で「同じ構造を持った作品」が受けているわけですから、やはり時代的な影響が大きいんじゃないかと推測できます。

 現在の若者は友だち同士の繋がりを気にして関係性が強迫的になり、コミュニケーションが大きな関心事であるという話は良く聞きます。

 であれば、主人公が特別扱いされ、周りにちやほやされるような作品に心地よさを感じるというのは、そのような現実の裏返しとして、道理に適っているように思います。また、小説という媒体に接する読者には、嗜好に何らかの共通性があるとも考えられます。

 これが「お姫さま化」した作品が現在の児童書読者に支持される理由なんじゃないでしょうか。

 つまるところ、児童書における「お姫さま化=ライトノベル化」の本質とは、イラストとキャラクター設定以上に、他者や周囲との関係の描き方なんじゃないかと、これらの状況から窺えるわけです。

(すがり)

 

 

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