児童書・YA・ライトノベル・ジュニア小説など、子ども〜10代向けの本のレビューをデリバリーします。児童書ブロガー、学校図書館司書、本好きな子ども、子ども本好きな大人などが、おすすめ本を紹介します。

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2013年

5月

21日

辻村深月「冷たい校舎の時は止まる」

第31回メフィスト賞受賞作であるこの作品。「冷たい校舎の時は止まる」というタイトルの示す通り、しんしんと雪が降る、凍てつくような寒さの冬の高校が舞台となっています。


いつも通りに登校した8人の高校生。しかし、次第に何かがおかしいことに気づく。開かない扉、無人の教室、5時33分で止まった時計……凍てつく校舎の中に閉じ込められてしまった彼らはどうすれば校舎の外に出ることができるのだろうか。みんなが悩む中、ふと2ヶ月前の学園祭の最中に自殺した同級生がいたことを思い出す。しかし、不思議なことにその人物の顔と名前が誰かに奪われたように8人の記憶からすっぽりと抜け落ちてしまっている。その人物は一体誰なのか、どうして学校に閉じ込められてしまったのか……

自殺者はこの8人の中の誰かだ―――

上記のようなあらすじで展開していき、いわゆる「ミステリー」にカテゴライズされるこの作品。じわじわと迫りくる恐怖や衝撃のラストもさることながら、大きな特長の一つとして挙げられるのは魅力的な登場人物です。自分に厳しく、他人に一切の弱さを見せないクールビューティー「桐野景子」。勉強にスポーツ、そして教師生徒を問わず誰もが一目置くカリスマ性を持つなんでもござれのスーパー高校生「鷹野博嗣」など、色とりどりの個性を持つ男子4人、女子4人からなる主要登場人物8人は県下でも有数の進学校に通う成績優秀な秀才グループで、そのフレッシュな気力と体力と知力で大抵の困難は解決できるかのように思えます。しかし、ストーリーが展開し、それぞれのキャラクターがゆっくりと肉付けされていく過程で、登場人物みんなが目に見えないところで悩みを抱えてもがいていることが分かり、登場人物の誰か一人にはものすごく共感してしまうこと必至です個人の感想としては、全国トップクラスの成績と誰もが舌を巻く画力を持つ天才「清水あやめ」が抱える、自分の才能の無さを嘆き、本物の天才とは何か、といった悩みやついつい悲観的に物事を捉えてしまうこのキャラクターにグッときてしまい、深く共感しながら物語を読み進めていった記憶があります。

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2013年

5月

16日

『きみの友だち』重松清

重松清の作品といえば、学生の頃はテストや模擬試験の小説問題でもよく見かけ、クラスメイトにも読んでいる人達が多かったようなイメージがあります。以前このサイトでも『エイジ』が紹介されていましたが、今回私は『きみの友だち』を紹介したいと思います。

 

本作は小学生の時交通事故で足を悪くした恵美を中心に彼女の小学校・中学校のクラスメイトや弟など、恵美と彼女に関わる人々が1章ずつ交代で主人公に置かれ、「きみ」という二人称を用いて第三者の視点から物語が描かれる連作長編です。

友だち、ってどんな人のことだろう?いつも一緒にいるから友だちなんだろうか?「クラスのみんな」は「友だち」なんだろうか?
事故をきっかけにクラスメイトと馴れ合わなくなった子、病弱で学校を休みがちな子、勉強もスポーツもこなすカリスマ的存在の子、逆に何をしても不器用な子、大人しくて控えめな子、転校前にいじめに遭っていた子――教室の中の様々に異なる立場の子が「友だち」とは何かについて向き合います。

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2013年

5月

02日

「狼と香辛料」

今回紹介するのは支倉凍砂著「狼と香辛料」です。この本はライトノベルと呼ばれるジャンルに属しています。

 

ライトノベルと言うジャンルはどこらからがライトノベルでどこから普通の小説なのかという明確な境界線はないのですが、一般的に「表紙や挿絵にアニメ調のイラストを多用している若者向けの小説」と言われ、1990年代ごろから確立され始めたジャンルです。

皆さんは今までライトノベルを読んだことはありますか。今の若い方はライトノベルに触れる機会が多く、何十冊とはいかなくても一冊や二冊読んでみたことがある人は多いと思いますが中には「表紙が恥ずかしい」や「現実とかけ離れためちゃくちゃな設定ばかりでついていけない」と考えて読んでいない人、または「稚拙な文章でイライラする」や「中身が全くない」などの理由で読むのをやめてしまった人もいるかもしれません。しかし、今回紹介する「狼と香辛料」はライトノベルの中でも物語の質が高く、なおかつ読みやすい部類に入ると思います。

 

「狼と香辛料」は中世ヨーロッパ風の世界を舞台にした、主人公のロレンスと豊作をつかさどる神と名乗る狼ホロの二人の旅を描いた作品です。ライトノベルというと神坂一の「スレイヤーズ」に代表されるような剣と魔法のファンタジーものや谷川流の「涼宮ハルヒの憂鬱」に代表されるような現代の学園を舞台にした日常生活にSF要素がはいった作品を想像しがちですが、この作品には超能力や魔法のような要素はあまりありません。

主人公のロレンスは荷馬車で各地を旅する行商人で、いつか自分自身の店を構えるのを夢見ながら旅と商売を続けています。あるとき、ロレンスは少女の姿をした賢狼ホロと出合い、成り行きで彼女の故郷である北の国へともに旅をすることになります。道中様々な騒動に巻き込まれながらも経験と機転で解決していき、二人の絆が深まっていきます。

 

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2013年

4月

23日

湯本 香樹実「夏の庭―The Friends 」

子ども~10代向けの本のレビューサイトの書評であるのに、今までは単に最近自分が読んだ本の紹介でしかなかったことに気付いたので、たまには自分が中学生の頃読んだ本を紹介したいと思います。

「夏の庭」は小学6年生の『ぼく』・山下・河辺の3人の少年と1人のおじいさんの交流を描いた物語です。山下が祖母の葬儀に出たことをきっかけに「人が死ぬ瞬間を見てみたい」と思った3人の少年は、町内で一人暮らしをしている今にも死にそうなおじいさんの家を「観察」しはじめます。しかしなかなか死なないおじいさん。やがて「観察」のことはおじいさんにばれ、3人は最初に怒られこそすれど、いつしか少年たちの一方的な「観察」は次第におじいさんと少年たち双方の交流へと変わっていくのでした。

この物語のテーマはずばり「死とは何か」です。しかしその問いに対する明確な答えが作中で示されているわけではありません。むしろ死とは何かが定義づけされないからこそ、少年たちの視点を通して読者たる私たちそれぞれが死とは何かについて個別の解釈を導き出すことができるのです。その点で物語のテーマは「死とは何か」というよりも「死とは何かについて考えること」と言ったほうが正確かもしれません。
先述のあらすじを踏まえれば最終的に少年たちとおじいさんに死別の時が来ることはある程度想像できるでしょう。確かに、おじいさんは最終的に亡くなってしまいますが、だからといって「おじいさんと男の子たちが絆を深めて死んで別れて感動ね」というだけで終わらないのがこの作品のいい点です。というより、それだけで終わってほしくないという私の願望かもしれませんが。中学生や高校生になると文字数が多くてちょっと難しい本を読むことにも次第に慣れてくると思います。そうなると結末ばかりを気にして、本を読むことで自分の考察を深めるということがおろそかになりがちです。

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2013年

4月

15日

井上ひさし『吉里吉里人』

時代は1970年ごろ。日本政府に嫌気がさした東北のとある村が日本からの独立を宣言する。その名は吉里吉里村。人口は5000人にも満たないほどの小さな村。ズーズー弁によく似た吉里吉里語による独立宣言はとても本気のものだとは思えない。しかしどうやら吉里吉里人たちはいたって大真面目に日本国からの独立を果たそうとしているようだ。とはいえあくまで田舎のさびれた一つの村が一国として独立などできるはずがない。事態の収束も時間の問題だろうと誰もが考えた。が、一向に独立騒動は収まらない。むしろその独立が徐々に現実味を帯び始める。
というのがこの物語のあらすじです。

この小説は一般にユーモア小説と称されることが多い作品です。もちろん今述べたあらすじの表面だけをなぞってみればたしかに荒唐無稽なように感じるかもしれませんし、本文中には何か所もくすっと笑わされるようなところがあります。そういった点を捉えて見れば確かにユーモア小説と呼んでも間違いではないでしょう。しかしこの小説の本当に優れている点はそういった部分ではありません。
この小説の最大の特長はその圧倒的な情報量とリアリティなのです。

小説内では吉里吉里村ならぬ吉里吉里国に関する描写がこれでもかというほど細かいところまでなされています。例えば物語序盤に登場する吉里吉里語修得のための小冊子はその内容が克明に記されており、さながら実際の語学書のようです。
小説を読み進めていき、吉里吉里国についてどんどん詳しくなるにつれてまるでこの国が実在するかのように思えてくるでしょう。
また、吉里吉里国が日本からの独立を果たすために抱えていたいくつもの切り札的作戦はいたって現実的かつ効果的なものばかりで強い説得力を感じさせるだけでなく、反面どれも日本社会の問題点を鋭く示唆するようなものにもなっていて現代でも続くそれらの問題について考えるきっかけを与えてくれます。
そんなすさまじい設定の数々と説得力ある迫真性に支えられながら繰り広げられる、ある種の壮大な思考実験とも言える本作は、誰もが唖然とするであろうエンディングに至るまで軽やかに、かつ重層的に展開され続けていきます。
文庫本にして三冊にも渡る大作ですが、作中で経過している時間はたったの2日だけ。読み終えるころには改めてこの作品の濃密さを思い知らされることでしょう。

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2013年

4月

02日

舞城王太郎著「熊の場所」

「小説とはいったい何か」

突然このような質問をされてもどう答えたらよいのか分からないと思いますが、ある作家が言うには「人生を描くものだ」とのことです。この答えがあっているかどうかは人それぞれの考えがあるので何とも言えませんが、個人的にはだいぶ的を射た答えではないかと思っています。いうまでもなく人生は一度きりであり、同じ人間が二回も三回も別の人生を生きることはできません。しかし、そうは分かっていても今の自分の人生に退屈し、他の人生を体験してみたいと感じる人は多いと思います。小説は通常では体験することのない第二第三の人生のようなものです。読者は主人公や登場人物に感情移入しながら現実とは違う人生を体感させる、小説にはそのような機能があるのではないでしょうか。今回は現実に退屈している人にとって刺激的な一冊を紹介します。

 

今回紹介するのは舞城王太郎著「熊の場所」です。舞城王太郎は2001年に『煙か土か食い物』で第十九回メフィスト賞を受賞しデビューした作家で、現在若者に人気のある作家のひとりです。舞城王太郎というペンネームを見て「変わったペンネームだな」と思った人もいるかもしれませんが、変わっているのはペンネームだけではありません。この作家は出身地と生年以外本名はおろか顔や性別まで謎に包まれた作家なのです。また舞城王太郎は2003年に「阿修羅ガール」で第十六回三島由紀夫賞を受賞しますが、その授賞式を欠席するという前代未聞の事件を起こしています。ネット上では舞城王太郎の正体について様々な憶測が流れていますが、結局その正体は明らかになっていないのです。

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2013年

3月

23日

小泉陽一郎「ブレイク君コア」

これまで紹介してきた本はどちらかといえば少し昔の本が多かったのですが今回紹介するのはいたって新しい作品です。タイトルは『ブレイク君コア』。
この小説は新進気鋭の出版社である星海社の星海社FICTIONSから出版されています。今回はこの作品についてだけでなく、その出版社のシステムについても少しお話ししたいと思います。

 

星海社は2010年の春に設立された出版社です。そしてこの出版社のなかでも特徴的なのは、星海社FICTIONS新人賞という年に三度開かれる新人賞なのです。
一 般的な新人賞には「下読み」というステップがあります。まず賞に届いた作品を編集者以外の評論家やライター、新人作家などといった人たちが読み、ある程度 の数まで絞る作業の事です。しかしこの星海社FICTIONS新人賞では「全ての応募原稿を、読むプロである編集者が直接読む」というシステムが採用され ています。このシステムの元になっているのは星海社副編集長である太田克史さんの出身母体、講談社のメフィスト賞です。

 

メフィスト賞とは90年代中ごろに創設された賞であり、現在の文芸の一つの流れを作っている舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新といった個性的な作家たちを数多く輩出している賞です。このメフィスト賞がそのようなシステムになったきっかけとしては作家、京極夏彦の存在があります。京極夏彦のデビュー作『姑獲鳥の夏』はもともとは持ち込みの原稿でした。この小説はそれまでの新人賞では受け付けられない膨大な枚数、そして賛否の分かれる強烈な個性を持った作品であり、新人賞などでは下読みの段階ではじかれていたかもしれなかったのです。しかしこの作品による京極夏彦のデビュー成功によって、投稿作には編集者が全て目を通すという異例のシステムが立ちあがったのです。

 

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2013年

3月

18日

川上弘美『神様』

川上弘美のデビュー作であり本のタイトルにもなった『神様』を含む9つの作品が収録された短編集です。

 

川上弘美の作品といえば以前『センセイの鞄』という2人の男女の日常を描いた話を読んだことがあるのですが、『神様』も主人公の「わたし」の日常を描いています。しかし『神様』における日常は我々読者が普段目にし体験する日常とは少し異なっています。

 

 「くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである。」

 第1篇『神様』の冒頭です。あたかもそこに何の違和もないような風に人間たる「わたし」がくまと会話をし共に散歩に出かける様子が書かれています。また他の8篇においても、梨の妖精を飼ってみる(『夏休み』)、人魚に魅了される(『離さない』)、亡くなった叔父と会話をする(『花野』)、といったように現実世界ではありえない「日常」が描かれています。文庫版の裏表紙には「不思議な<生き物>たちとのふれあいと別れ」という表現が用いられていますが、亡者もいるので生き物と括ってしまうよりは「(不思議な)普通ならざるものたち」と言ったほうがより正確かもしれません。

 

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2013年

3月

12日

「江戸川乱歩傑作選」

 今回紹介するのは推理小説家江戸川乱歩の短編集「江戸川乱歩傑作選」です。江戸川乱歩はかなり有名な作家なので知っている人も多いと思います。「江戸川乱歩傑作選」は筆者のデビュー作である「二銭銅貨」をはじめとする初期を代表する短編小説を収録しています。

 

 ところで皆さんは推理小説を読んだことはあるでしょうか。小説には恋愛小説や歴史小説など様々な分野がありますが、推理小説はその中でもかなり人気のあるジャンルといえます。現在、数多くの推理小説が出版され、時にはドラマ化してテレビ放送されたりします。多くの作家がありとあらゆるトリックを考え出しているため、新しいトリックを生み出すのが難しくなっており、ある小説家は「もし、密室殺人で新しいトリックを思いついた人がいたなら百万円払ってでもそれを買い取りたい」というぐらいで、つまり推理小説は日本で長年人々に好まれ続けて洗練されたジャンルの小説であるといえるのですが、ここまで発展した推理小説の礎を築いたのが江戸川乱歩なのです。江戸川乱歩は大正から昭和にかけて活躍した小説家です。当時日本の推理小説は外国の訳本が主でしたが、江戸川乱歩は西欧の推理小説をお手本にしつつ独創的な作品を作り出し出しました。

 

私は江戸川乱歩が有名な推理小説家であるというぐらいは知っていましたが、実際に作品を読んだことはありませんでした。昔私は推理小説になじみがなく、なんとなく堅苦しそうだという理由で読んでいませんでした。江戸川乱歩の作品に興味を持ったのは高校生の頃に読んだSF作家星新一がエッセイの中で江戸川乱歩の小説について語っていたことがきっかけでした。前回前々回と本を紹介したことからわかると思いますが、星新一は私の最も好きな作家のひとりです。星新一が子どもの頃、江戸川乱歩は少年探偵団シリーズに代表される多くの児童向けの小説を書いており、星新一は胸をときめかせながらそれを熱心に読んでいたと語っています。私自身は前にも書いた通り小学生のころから星新一の本を夢中になって読んでいた人間ですからそのエッセイを読んだとき「あの星新一が熱心に読んでいた江戸川乱歩の小説は一体どういったものなのだろうか」と興味を持ち、何か一冊読んでみようと手に取ったのがこの「江戸川乱歩傑作選」だったのです。今回はこの中のいくつかを紹介したいと思います。

 

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2013年

3月

08日

朝井リョウ「桐島、部活やめるってよ」

映画「桐島、部活やめるってよ」日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞おめでとうございます!

すごくよかったけどこんなメインの賞を穫るとは思わなかったので、感激もひとしおです。これからDVDを見る人も多いと思いますが、原作もぜひ読んでもらいたく、以前書いていたレビューですが、ここにものせておきます。

先日バス停で聞こえてきた、たぶん男子中学生の会話。

 

「なんか部活、行けないんだよねー。でも行ってることになってるから、シャツにギャツビースプレーしといた」「親うるせーもんな」


思わず、苦笑です。まさしく自分の子も同じようなこと言っていたので。親にしてみたら、団体行動なのに迷惑かけて!とキリキリしていたけれど、あの頃、なんだかわからないけど嫌になったり、思い詰めたり、そんなことが部活の中でたくさんあったんだっけな、と今さらながら思い出したりしたのでした。

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